「建築探訪 06」 -Kanagawa

神奈川県立図書館・音楽堂

神奈川県立図書館・音楽堂(’54) 設計: 前川國男へ行ってきました。
(上写真) 音楽堂を正面から見る。日本近代建築の名作。

前川國男(1905-86) は近代建築の巨匠ル・コルビュジェに学んだ日本人最初の弟子。1928年、コルビュジェにとって「白の時代」と言われるシンプル/ホワイト/キューブの住宅ばかりを設計していた時代が終わろうとしていた頃・・乾式工法住宅や土着的要素を取入れた住宅へとコルビュジェの作風が移っていった頃・・前川國男は卒業式後すぐに旅立ち、シベリア鉄道に乗り・・ パリのコルビュジェのもとへ。1930年に帰国。

帰国後に前川が完成させた処女作「木村産業研究所(1932) 」はまさに “コルビュジェ風”でした。・・ 帰国後も、戦中は仕事もなく・・実現されそうにもないコンペに、”新しすぎて”当選しそうにもない”コルビュジェ風の近代建築”を提案し続けたり。戦後も・・ 資材統制により木造の小規模建物しかできない状況で”木造モダニズム建築”を模索したり。苦しい時期が長く続きました。

神奈川県立図書館・音楽堂
正面が図書館。右側が音楽堂

コルビュジェに学んだ「近代建築」を力の限りに、やっと実現できたのが・・この「神奈川県立図書館・音楽堂」。前川が得意とする「卍型の一辺で配置した非対称型プラン」・・内外へ流動するような、透明感あふれる端正な空間 ・・前川にとっても珠玉の作品。清楚に咲いた日本近代建築の清純な花といった感じ。

神奈川県立図書館・音楽堂
音楽堂のホールを見る。床のテラゾーが素敵です。
神奈川県立図書館・音楽堂
図書館の入口を見る

この後には、1960年の「京都会館」、1961年の「東京文化会館」 などで、続けて建築学会賞を取るなど・・大活躍の前川國男。

しかし、少しずつ人間性を失っていった近代建築に限界と矛盾、絶望と無力感を抱きはじめていた。・・前川の作風に「庇」や「勾配屋根」や「タイル」など、近代建築の言語ではない要素が少しづつ取り入れられ。・・「希望に満ちた近代建築」の理想主義的な拘束から逃れ、地域性に考慮された現実的な「日本においての近代建築」を実現させようと大きく作風は変化していきました。

70年代の「埼玉県立博物館」や「熊本県立美術館」や「福岡市美術館」こそ、熟練の域に達した前川建築の神髄ではないでしょうか。・・前川さんの建築は、同時代の流行に敏感だった弟子でもある丹下健三(1913-05)の派手さと比べると・・地味でその良さを言葉で説明するのも難しく。私も学生の頃は興味もなく・・良さも分からなかったのですが、仕事を始めてからだんだんと興味が沸いてきたという感じです。

展覧会 2007

昨日・一昨日、東京へ6つの展覧会をまとめて見に行って来ました。
1.ル・コルビュジエ 展 /森美術館六本木
2.伊東豊雄 展 /神奈川県立美術館葉山
3.アルヴァロシザの建築 展 /ギャラリー間
4.GA INTERNATIONAL 2007 展 /GAギャラリー 
5.チョコレート 展 /21_21DESIGN SIGHT
6.スキン+ボーンズ 展 /国立新美術館
東京はいつも興味惹かれる展覧会や催しが事欠かない、特に建築にまつわる展覧会は東京以外は皆無に等しい・・今回も5カ所で建築展、この点ではただただ羨ましい限りです。
展覧会だけでなく、「神奈川県立図書館・音楽堂」や「横浜国際フェリーターミナル」や「神奈川県立美術館」や「東京ミッドタウン」・・建築探訪も織りまぜ、急遽お知り合いの方に誘われて築地魚市場で見学/朝御飯も食べ・・強行スケジュールで足は棒の様になりました・・

「建築探訪 05」 -Kochi

牧野富太郎記念館

「牧野富太郎記念館」(’99) 設計: 内藤廣 へ行って来ました。
高知市内からバスで20分ほど、高知出身の植物分類学の父・牧野博士の業績を顕彰するため、1958年に開園。1999年に教育普及/研究の拠点として”記念館”が新設。記念館には立面らしい立面はありません、丘陵地の地勢と一体化したような、湾曲したクロワッサンのような大きな屋根に覆われた建築・・

牧野富太郎記念館
テラスより中庭を見る。大きな屋根を支えているのは鋼製柱。大きな屋根が浮いている感じ
牧野富太郎記念館中庭
中庭を見る。大きな屋根の軒下空間がぐるり。「海の博物館」(’92)で注目されて以来、「素形」というコンセプトと共に大活躍の建築家/内藤廣さん・・近代以降の建築家が避けがちな “屋根” という建築要素を避ける事なくデザイン・・とても大きな屋根が、フレキシブルで、自由な感じ・・

内藤廣さんは“風”というメタファでこの建築を説明・・「近代主義の空間意識とは周囲の環境から孤立する”閉じた箱”であり、地球上どこにでも行け る宇宙船の様なものなのだと・・近代建築が多くの人々にとって希望となり得ないのは近代建築が、孤独で臆病に “閉じて” いるからなのだと、”閉じた箱”ではなく、内と外を繋いでいく方法を建築は見出していかなければいけないんだと・・」 「 重力と風  (’99/12 新建築) 

(上左) 建築家ヨーン・ウッツォンが描いた日本建築のスケッチ。屋根が浮いてます!
(上右) 唐招提寺の立面。屋根が立面の2/3
(下左) 伊勢神宮の立面。屋根と床で立面の80%
(下右) 桂離宮の立面。屋根と床で立面の70%

伝統的な日本建築において、屋根が立面に占める面積の多さには驚かされます・・「近代以降の建築には屋根がない」。屋根がないというのは間違いで、正確に言うと「陸屋根」という事だが・・近代以降の建築家は屋根を嫌い、屋根が在るという事は前近代的で・・屋根がないのがカッコイイのである。
しかしそれは今でも「カッコイイ感じの建築」にとって、屋根のハードルはわりと高い。屋根は”踏み絵”に近いローカルで、前近代的なイコン。とりあえず、四角く白く、ホワイトボックスにしておけば・・誰でも簡単に「カッコイイ感じ」が出来るのだから・・寺院や伝統的な民家の、大きな屋根への憧憬を想い起こさせる、見事な “大屋根” の建築・・牧野富太郎記念館は、very goodでした。

レオス・カラックス 1/3

Leos CaraxのVHSビデオ

レンタルショップで「BOY MEETS GIRL」(’83) 監督:レオス・カラックスを100円で購入しました・・ ビデオからすっかりDVD に変わり・・レコードからCDにあっさり変わってしまったように・・ 1万円以上していた映画ビデオがいまやワゴンセールで100円だ・・

夢想家で自意識過剰な青年の1日(夜~夜)を描いた青春映画。孤独で切ない現代の若物の心を等身大で描いた、やや自伝的な・・ 今あらためて見るとやや気恥ずかしくもなるが、大学生になったばかりの頃 初めてこの映画でレオス・カラックスに出会った時は・・ もの凄く共感を持って見ていたような気がします・・1960生まれのカラックスは16才で学校を辞めて、この映画の脚本を書き始め・・練り直しながら22才で書き上げ・・ 100万フランの制作資金援助を国から貰い、わずか8週間・・ “夜のパリ” という状況でそのほとんどが撮り上げられました。

映画は友人の裏切り/恋人達の別れから始まり・・ 登場人物は皆孤独、みんなの気持ちがすれ違い・・特に主人公アレックスのコミュニケーションは誰に対しても不自然で一方的・・ その極みが映画全体の半分近くを占めるパーティーシーン・・ 楽しいはずのパーティでも客は皆つまらなさそうに黙っている・・ そしてアレックスが “初めて” ヒロイン/ミレーユに会い、キッチンで告白(?)するのだが・・ 恋人との不仲状態でショックを受けたばかりで、話しをする気もないミレーユに・・アレックスは一方的に喋る喋る喋る・・ 恋/映画/自分について・・最後には「運命だ!!愛し合おう!!」と。登場人物は、皆悲しく淋しそうなのだが・・ 映画全体にはシュールな寓話のような雰囲気が漂う映画・・ 

サイレント映画とゴダールを溺愛するカラックスが夢見るように作った・・ 独特の映像美による、儚い寓話的世界。劇中では監督自身の分身である主人公アレックスに「2度人生をやれるほど案がある!」と強く語らせたのとは対照的に・・ カラックスが極めて寡作なのは、「 映画を撮る = 自らの世界の確立 」 と言えるまでに、映画を愛し 肉体化した・・ “早熟すぎた天才” ゆえの苦しみからだろうか。

建築の最新 2

Zaha Hadid

前投稿に引き続き 「最新CG建築」ギャラリー part2。
デ・コン(デ・コンストラクション-非構築的な、壊れたような崩れそうな格好をした建築スタイル)の元旗手 イラク生れの女流建築家Zaha Hadid 設計の高層ビルの完成予想CG。凄い!!・・ビルがうねっている!!!・・Photo Shopで画像加工したみたいで酔いそうだ・・
(下左)フランスの建築家Jean Nouvel設計の高層ビルの完成予想CG。
何とも言えない独特の艶・芳香を放つヌーベル建築らしさが漂うが、神柱or磐座を思わせる原初的なフォルム、注連縄でも巻いてたら拝んでしまいそうだ。
(Jean Nouvelはパリのカルティエ現代美術財団や最近できたケ・ブランリー美術館が有名、日本では電通本社ビルに関わったりしてます)
元・大阪人としては”丸い”ビルといえば、梅田「丸ビル」が 丸さがもたらすメンテナンスコストの高さにより倒産した事を思い出してしまう、ガラス変えるのもタイル張替えもどんな部材でも、確かに丸かったり歪んでたりするとコストは何倍もしますから・・そんな庶民的意見は世界的スター建築家のお二人には些末な事でしょうが・・

Jean Nouvel青木淳

(上中)は青木淳の大阪・南港にある結婚式用教会を思わせる、連結したリングが高層ビルを支える構造となっている様だ・・凄いな・・
(上右)は積木を積み上げた様な高層ビル、計画地は新宿の様だ・・これも出来ればこれまで見た事ないような物だが掃除は大変だろうな・・

しかし”建築の最前線”は凄いなぁ・・何でもあり状態という感じ・・
コストが掛かっても、メンテが大変でも、使い難くても、設計料が高くても・・それでも設計を頼みたくなる魅力がスタ-建築家にはあるのは確かだ・・彼らはクライアントに最新の[fashion=流行] -「人と違うこと」「新しいこと」「より洗練されていること」を提供する。
時代が変われば [fashion=流行] は必ず [out of fashion] になってしまうが、才能豊かなアーティストがその時代を真摯に映そうとした[fashion=流行]には、ON TIME でしか感じられない その時間を共に過ごした人にしか分からない、何とも言えない一言では表現し難いSYMPATHYが記憶に残る、10年20年経過した時 “滑稽”と思えたとしても、同時代で感じたSYMPATHYが共在した感動って特別だ。

「くらしき花七夕祭」

夜の大原美術館

8/4(土)と8/5(日)は「くらしき花七夕祭」です。
美観地区では美術作家によりコ-ディネ-トされた、オリジナリティーのある七夕飾りで倉敷川周辺が彩られています。
「大原美術館 本館」 (1930 設計: 薬師寺主計) では~PM8:00までの特別開館で浴衣着用の人は入館無料でした。「浴衣」と「暗くなってからの美術館」・・ほんの少しいつもと違う小さな企画というのも、見慣れた物・場所から再発見をする機会となり楽しいものでした。
and 「日本郷土玩具館」では~PM9:00まで(浴衣着用者は無料です)。

薬師寺主計(1984-65) は近代建築の巨匠ル・コルビュジェに会った最初の日本人建築家だそうだ、1922年パリで催されていたコルビュジェの「300万人都市」の展示を見たのがきっかけだったらしい・・薬師寺38才、コルビュジェ35才。1922年のコルビュジェと言えば「300万人都市」や「シトロアン型住宅」といった刺激的な計画案、雑誌「エスプリヌーボー」での過激なマニフェストで知られてはいたものの近代建築の実作らしい実作もまだなく、「白の時代」といわれる自身の近代建築5原則を応用した ホワイト/シンプル/キューブな住宅をつくり始めたばかりの頃。

建築の最新

北京オリンピック水泳競技場
「北京オリンピック 水泳競技場」2008年完成予定 設計:PTWarchitects
(PTWarchitectsはオーストラリアの大手設計事務所)

設計コンペ案が発表された時、完成予想CGの水泡が集まって出来上がった様な外観には驚いた。最近の大規模な国際設計コンペの入賞案などには一目見ただけでは、どんな構造/どんな材料で出来上がるのかが分からない様なものが少なくない・・
フイルムやガラスといった建築表皮材の新しい可能性の追求。コンピュータ活用により複雑で挑戦的な構造でも解析が可能になった事や設計時のデーターをそのまま施工用データ-として利用できる事など。考える/表現する手段としてのコンピューターの浸透・・様々な新しい試みの積み重なりが「新しい建築」としてCGではたくさん”実現”したものを眼にしていたが・・
CGを見ながら、「こんなの本当にできるの!?」と言っていた様なものが次々現実のものとして建ち上がってきました、北京ではもうその骨格が現れ工事中の様子もメディアで多々取り上げられ、これから2008年が近づくとその姿を度々TV等で何度も眼にする事でしょう、2008年8月には北島君がここで泳いでる。

北京オリンピックメインスタジアムと中国中央電視台
(左)は”水泡”の横に建つ”鳥の巣”こと「北京オリンピック メインスタジアム」
の完成予想CG。スイスの建築家Herzog&deMeuronの設計(日本では彼らが設計したプラダ青山店は有名)
(右)その頃にはオランダの建築家Rem koolhaas設計 「中国中央電視台」も北京には出来ている・・50階もある双塔が地上150mのところで折れて繋がるというこれまでに類を見ない大胆な構造の高層ビル。
(イサムノグチの彫刻EnergyBoidに形が似てる・・)

実際の建物として、使う人の要望を聞き/大工さんや職人さんがつくる為に図面を書くというような設計過程/手法とは全く違う・・コンピューターの中でイメージそのものが、こんな事もできるあんな事もできると大胆過激過剰な「CG建築」として練られてゆく・・
そして、”そのまま”実際の建物として出来上がる。
なかなか”そのまま”という訳には行かず、完成予想CGでは綺麗だったが出来るとイマイチだったり、「CGと違うじゃないか」と突っ込みたくなるものも多いが・・「こんなの本当にできるの!?」がだいたい出来てしまう”建築の最前線”は凄く面白いが・・この大胆過激過剰さは70年代メタボ建築や80年代ポストモダン建築や90年代デ・コン建築の滑稽な悪夢を呼び起こされる人は少なくないはず。モダン終焉以降 建築の歴史がすごく滑稽に見える時があると言うのはシニカルすぎる見方だろうか・・

「建築探訪 04」-Hiroshima/呉

呉市庁舎/市民会館

週末、「呉市庁舎/市民会館 (’62)」を探訪・・ 設計は坂倉準三建築研究所。
濃青色タイル張りの二つの円筒形 ( ひとつは空に向かって螺旋状曲面を延ばす市民会館ホール。もうひとつは議会場。 ) と 水平要素(ブリッジ や 議会場の大きな庇 )の対比が美しかったです・・さすがの “コルビュジエ的な感じ” 。

呉市庁舎/市民会館
螺旋状曲面を空へと延ばす市民会館ホールを見る。
今は白く見える部分は、もともとは “コンクリート打放し” の様でした・・ある時ペンキで白く塗られました・・”濃青色タイル円筒形”と”打放し”の対比はすごく綺麗だったろうな・・
呉市庁舎/市民会館
大きな庇が効いている議会場を道路より見る

建物は全体的に傷み汚れが目立ち、あまりメンテされてない様な感じ。50~60年代の有名作品には “打放し建築” が多い。完成時の写真のイメージを頭に入れ見学に行くと・・”打放し建築” のひどい汚れ様/傷み様/ペンキ塗りされた様にガッカリする事は何度もあり・・プランや形が変わったわけではなく、ペンキを塗られただけなんだけれども、建物の印象としては・・全く違うものにすら見えてしまう・・ 色と素材と形 のバランスは非常に緊密なのだから・・ こんな時には竣工時の姿を当時の資料などから想像してみます・・

〈追記〉2017年解体

「建築探訪 03」 Kagawa 3

香川県立体育館

「香川県立体育館」(’64) 設計:丹下健三 に行ってきました。
高松市中心からバスで10分、少し歩くと見えて来ました・・住宅街に舞い降りた和風宇宙船の様なインパクトのある姿は、周囲の平凡な街並みからは完全に浮いていました・・50年ほど前に地方都市につくられた市民施設。当時日本を代表する建築家による新しい表現。今は細々と使われメンテは最低限でやや使いこまれ古びた感じ・・出来た当初はその過激な表現と高い理想と過剰な情熱で注目を集めた話題作が、今は静かな住宅街の中で寡黙に立尽くしています。

香川県立体育館
“舟底”になる大きなアールの天井に覆われたエンスランスホールは素敵でした。剣持勇の椅子以外は何も置かれてない、ポスター1枚も貼られていない、ガランとした建築空間だけがある竣工写真の様な状態でした
香川県立体育館

一つの作品としては非常に高いレベルにある大建築家の作品なのだが、周囲とはいつまでも馴染めなかった転校生のような寂しさ・・HP局面の吊り屋根・観客 席床の格子梁・それらを支える大側梁大柱による構造のダイナミックな構成による表現は同年竣工した丹下健三のピ-クと言ってもいい「東京オリンピックプー ル」を連想させずにはおきません。

やまぼうし

トリムデザイン設計の住宅にやまぼうしの花が咲きました

トリムデザインで設計させて頂いた「美和の家」のシンボルツリー”やまぼうし”に花が咲きました。
一度目に迎えた初夏には花が咲かず心配していましたが、2度目の初夏を迎えかわいい花を咲かせました。”山法師”の樹名は丸いつぼみを坊主頭、白い花を頭巾に見立て付けられたそうだ。
花が上部に咲き 上から眺めると蝶が舞っているような姿が美しいので、2階の窓から眺められる様に計画いたしました。