「建築探訪 46」-Tokyo/世田谷

世田谷区民会館/公会堂

前川國男による「世田谷区民会館/公会堂」(1959)を探訪して来ました。
(上写真) 中庭より公会堂を見る。屏風のように折れ曲がったコンクリート打放し壁(折版構造)は、50年以上経過し・・ 古代遺跡の様な迫力があります (頂部庇の出が大きくやや建物をクラシックに感じさせている事と、大きく成長した木々の存在感が効いているのかな)。住宅地に囲われた小都市の広場として、居心地の良い空間でした。

世田谷区民会館/公会堂

同じ様な折版構造の公会堂といえば・・丹下健三の「今治市庁舎/公会堂」(1958) がとても似てますが・・ 竣工年だけ見ると、弟子である丹下さんの方が1年早い。 折版構造つながりでは、有名な群馬音楽センター(前川の日本の師であるA.レーモンド) が1961年・・ 弟子から師まで順番に作ってる・・みんなこの頃に集中してる。この頃の建築家にとって “折版構造” がいかに魅力的な建築手法であったか・・ という事なのかな。

(上写真右) 区役所へとつながる連結部。1階ピロティ部は道路側への通り抜けスペース。人を誘い込む様な計画手法や、ブリッジによる建物間の連結などは・・ いかにも前川さんらしい。

世田谷区民会館/公会堂
(左) 道路側より見る区民会館。ちょうど昼休みの時間、木陰の下ではお弁当を食べる職員さんが何人か
(右) 中庭より見る公会堂と区民会館の連結部

コンクリート打放しの公共建築は、ノンメンテナンスで状態がかなり悪い場合が多くあり、汚れ痛みが目立つのですが ・・「世田谷区民会館/公会堂」では、大きく成長した木々の存在が、その印象をかなりカバーしている様に思えました。

世田谷区民会館/公会堂
建物全体を廻っている手摺の存在がGOOD

中庭からテラスへの繋がりや、建物の回遊性を促すデザイン要素として・・ 広場を中心とした都市的空間の演出に効果大でした。翌年の「京都会館」にもつながるデザイン要素かな・・ そういえば前川さんの傑作である「神奈川県立図書館・音楽堂」(1954) も手摺が効いていたし、全体の雰囲気もやはり似ている・・ 前川さんの “打放し時代” の建築では、手摺の存在感や、ブリッジによる分棟の連結がわりとポイントになっています。

「建築探訪 40」-Tokyo/目白台

東京カテドラル聖マリア大聖堂
目白通りより南側外観を見る

日本建築界の大巨匠・丹下健三の設計による「東京カテドラル聖マリア大聖堂」(’64)に行って来ました。1964年といえば東京オリンピックの年で・・もちろん丹下健三の最高傑作といってもよい「代々木国立屋内総合競技場」も竣工した年。
しかしこちらも負けずに素晴らしい・・ 十字型平面を覆う幾何学的な美しいHPシェル曲面による大屋根(大壁?)のみによるシンプルかつダイナミックな構成・・「代々木国立屋内総合競技場」と「東京カテドラル聖マリア大聖堂」・・同じ年に大傑作が2つも。
丹下さん51歳・・ 1952年の「広島ピースセンター」から始まった丹下健三絶頂期の終焉を飾る作品なのでは・・ 

東京カテドラル聖マリア大聖堂
(左) 西側より外観を見る。天気はあいにくの曇り雨
(右) 外装曲面の仕上材はステンレス材。近くで見るとこの様な大きなリブ形状をしており、表面はエンボス加工が施されています。5年程前に大改修されてキレイに (もともとのステンレスであるSUS304よりは、改修されたステンレスであるSUS445は・・光沢感が鈍いそうだ・・改修前の方が明るく軽快とのこと)
内部は撮影禁止なので、書籍より。外観構成がそのまま内部に現れた・・力強く、ダイナミックで、ストイックで、厳粛で・・ 素晴らしい祈りの空間となっています

展覧会 2011

いくつかの展覧会や建物を見に行って来ました。メインは2つの展覧会・・

午前の1つ目は、六本木の森美術館「メタボリズムの未来都市展」
メタボリズムとは生物学用語で “新陳代謝” を意味します・・環境にすばやく適応して生きる生物のように、姿を変えor増殖していくような建築のヴィジョン・・海上都市や空中都市やカプセル建築等々。
世界にも影響を与えた、日本生まれの数少ない建築運動。1960年代に提案/実現された理想高く力強い・・ 黒川紀章、菊竹清訓、大高正人、槇文彦、丹下健三、磯崎新 等々の計画/作品郡。いつもながら大変なヴォリュームがある森美術館の展示・・ 朝いち午前10時から見て、出たのは午後1時すぎ・・ たっぷり3時間程かけて見させて頂きました。

午後からの2つ目は、東京国立近代美術館「ヴァレリオ・オルジャティ展」
1958年生まれ、スイスの山里フリムスに事務所を構え、時流にとらわれる事のない、本質的で存在力のある建築でありながら、世界的にも話題を集める建築をつくる・・ スイス人建築家の展覧会。
“概念性” と “職人性” 、”先進性” と “懐古性” が同時に混在したヴァレリオ・オルジャティの建築作品。住宅も美術館も全て同じ1/33で作られ、細かい部分は省略され、作品のコンセプトをうまく抽出して、具現化された真白で美しい模型群。そして彼が “図像学的自伝”と呼ぶ、彼自身が強く影響を受け、自身で集めた建物/空間/絵画などの図版郡。その模型群と図版郡の間を順路も関係なく巡る・・ という会場構成が素敵でした。

午前中、メタボリズム展を見始めた時、背の高い外国人の方がすぐ後ろから入ってこられました。この方とは、ほぼ同じペースで会場を巡る事になり・・ 何度か顔を見ている内に・・どこかで見かけた気がしてきて・・・  
白髪で/背が高く/眼鏡をかけた・・ 会場を出る頃、やっと思い出しました。 先週 買った建築洋書・・・ その作品集の写真の人だ!!  (下写真)

午後から見に行く「ヴァレリオ・オルジャティ展」の・・ オルジャティさん本人でし!勇気をだして「Are you Valerio Olgiati ?」と聞くと・・
「Yes」と優しい笑顔で答えて下さいました。作品集を先週買った事、午後からあなたの展覧会を見に行く事、あなたの作品が好きだという事・・を伝えたつもりでしたが、つたない英語なのでうまく伝わったかな?  でもずっと笑顔で・・ 優しそうな感じ。最後に握手もして頂き・・大きな暖かい手のオルジャティさんでした。

大原美術館ワークショップ 2011〈終了〉

大原美術館のワークショップが終了。美観地区エリアにある・・・丹下健三の「倉敷市立美術館(旧市役所)」と浦辺鎮太郎の「大原美術館 分館」を案内させて頂きました。 同年代の2人の建築家による、同時代の2つの作品・・・1960年代に建てられた2つの日本近代建築の名作が道路を挟んで対峙しています。 参加して頂いた皆様に、それぞれの建築/建築家の特徴や魅力をうまく伝える事が出来ただろうか。
(上写真) まずは建築家とその作品について簡単に40分ほど説明。
(下写真) それぞれの建物を各40分ほど探訪。

普段は見る事/入る事ができない場所なども見学させて頂き、感謝感謝。
寒い中、2時間のワークッショップ・・・皆様、ありがとうございました。

大原美術館ワークショップ 2011

昨年に引き続き大原美術館のワークショップ講師を務めさせて頂きます。美観地区エリアにある1960年代に建てられた2つの日本近代建築の秀作を案内させて頂きます。
ひとつは倉敷市出身の建築家・浦辺鎮太郎(1909-91)の設計により1961年に建てられた「大原美術館 分館」。もうひとつは日本を代表する建築家・丹下健三(1913-05)の設計により1960年に建てられた「倉敷市美術館」。
見所/魅力が分かりにくい近代建築・・・普段は絵画作品を見るための器として目立つ事の少ない”建築そのもの”・・・にスポットライトを当て、その魅力 についてお話をさせて頂こうと思います。  

詳細は大原美術館のWEBサイトにて。お問い合わせは大原美術館「建物探訪」係まで

「建築探訪 28」 -Ehime 3

坂の上の雲ミュージアムと菅井内科

愛媛建築探訪のメインであった・・安藤忠雄さんが設計され、昨年OPENしたばかりの 「坂の上の雲ミュージアム」 (上写真左)
5度傾斜したカーテンウォールの外壁に覆われた三角形平面の建築・・大きな池のあるピロティを眺めながら長いスロープを上がって 2階エントランスにいたります・・・エントランスの踊り場から建物裏を覗くと見えたのが・・ (上写真右)うねるカラフルなバルコニー腰壁が積層したただならぬ外観の建物・・・
(大御所”ANDO”先生のミュージアムはさすがにキチッと出来てました・・)

菅井内科

(上写真左)店舗が並ぶ通りからは、階段でかなり上がるかたちになるがこちらがメインアプローチのようだ・・「菅井内科」は長谷川逸子さんが1980年に設計された建築・・うねる壁面、軽く舞うパンチングメタル、華やかな色彩・・・過剰な装飾をまとい、押しが強く、理由もなく明るい・・ポストモダン建築時代の到来を予感させる・・
1986年「東京都庁舎」コンペで丹下健三が1等を勝ち取った年、もうひとつの話題コンペであった「湘南台文化センター」を”第二の自然”というコンセプトで見事に勝ち取った女性建築家(日本では女性建築家が大きな公共建築を手掛けるのはこれが初? だと思います)・・・長谷川逸子の80年代初期の作品・・

「建築探訪 24」 -Ehime 2

愛媛信用金庫今治支店

「愛媛信用金庫 今治支店」(’60) 設計:丹下健三 を探訪・・
コンクリート打放しの彫塑的外観・・・とにかく庇が大きい。
今治市民会館(’64)」の庇も大きかったが、こちらの方が先・・・コンクリート打放しの大庇のダイナミックな建築といえば・・コルビュジェのインド/チャンディガールの「高等法院」(’50)「国会議事堂(’50)」「ロンシャンの礼拝堂(’55)」を思い浮かべますが・・もともと17才の時に雑誌で見た「ソヴィエトパレス計画案(’30)」(コルビュジェ)に感銘を受け建築家を志した丹下さん・・ やはりコルビュジェの影響力は大きい。

愛媛信用金庫今治支店

その後の1961年竣工の「戸塚ゴルフクラブ」ではもっと過剰なまでに庇は大きくなっていきます・・・コルビュジェの直接の弟子である前川國男(もちろんですが丹下さんの師匠)の名作である「京都会館(’60)」「東京文化会館(’61)」、坂倉準三建築研究所の「旧枚岡市庁舎 (’64)」 など・・・1960年前後にはたくさんの “大庇建築” が・・ やはりコルビュジェの影響力は大きい。1929年のサヴォア邸以降は木や土やレンガ、荒々しいコンクリートなど手の痕跡や素材の厚み/重量が感じられる表現などそれまでには見られなかった方法へと移ったコルビュジェ・・そして戦後には人々を包み込む様に招き入れる象徴的な “大庇” をデザイン要素として取り入れたコルビュジェ・・影響力はとても大きい・・さすが近代建築の大巨匠。

「建築探訪 23」 -Ehime

今治市庁舎/公会堂/市民会館

愛媛県今治市にある 「今治市庁舎/公会堂」(’58) & 「今治市民会館」(’64) を訪ねました・・・設計は丹下健三。・・3棟の配置/ヴォリュームがつくり出す調和、各棟に変化をつけたデザイン要素のおもしろさ・・あまり期待せずに訪ねましたが、さすが 「世界の丹下健三」・・出来てから50年経っているのですが、”懐かしい近代建築らしい近代建築”・・・清々しい建築でした。
(上写真) 左から公会堂/市民会館/市庁舎

今治市公会堂
公会堂を見る

広島ピースセンター(’52,’55)」 「旧東京都庁舎(’57)」 「香川県庁舎(’58)」とコンクリート建築の柱梁による日本的表現で名建築を生み出してきた40代の丹下さん。1958年の折版構造によるこの建築は、「オリンピックプール(’64)」 「東京カテドラル(’64)」 「香川県立体育館(’64)」 「山梨文化会館(’67)」 等の・・50代の構造表現色の強い丹下さんの新しい展開への繋がりに位置する作品・・ 

今治市民会館
市民会館を見る

コンクリート打放しの大きな屋根庇や、縦リブ&サッシのリズミカルな壁面開口部の割付けによる表現が・・・「ロンシャンの礼拝堂(’55)」 「ラ・トゥーレット修道院(’60)」や一連のインドでの作品など・・コルビュジェ建築の強い影響を感じさせます。

今治市民会館
市民会館の詳細・・内部からみたコルビュジェ的サッシ割りが、綺麗
今治市民会館
市民会館の詳細・・庇部、バルコニー部、壁面など細かなところまでデザインされてます
今治市庁舎
市庁舎を見る

竣工時のコンクリート打放しの姿 (現在は市民会館以外は”吹付け仕上げ”に改修されています・・) を作品集で見ていると・・素材とヴォリュームが産み出す緊張感のある静謐な姿がとても美しい。・・丹下健三45才の作品 (当時の担当スタッフは磯崎新との事) 。・・やはり1950年から70年までの丹下作品は、抜群に造形感覚が敏感で秀逸・・カッコイイ