「建築探訪 148」-Aichi 2

一歩亭

程良く高さを抑えた塀の向こうに見える佇まい、豊田市美術館の敷地内にある「一歩亭」。設計は美術館と同じ・・モダンデザインだけでなく数寄屋デザインも巧みな・・谷口吉生さん。広間と立礼席のある茶室建築・・妻面の真下部分がメインエントランス。

一歩亭

南側外観を見る。柱に支えられた、薄い庇下・・両引分け戸のメインエントランスが見えます。非常に寡黙・・無駄のない佇まい。

一歩亭

線材によるシンプルな構成美が・・goodです。床の石材は、美術館でも多く使われているグリーンスレート。

一歩亭
建物をぐるりと囲う軒下空間、いい感じです・・
豊祥庵
折れ曲がりながら伸びていく・・東側の軒下空間。右手に別棟の茶室あり(三畳台目と一畳台目の席がある”豊祥庵”)
一歩亭
東側外観を見る。水平に低く伸びる日本的な佇まいがgoodです。メインエントランスのある南側の軒下空間が・・そのまま東側まで廻ってくる・・
一歩亭
軒先を見る・・板金(唐草)と板(広小舞)の間が、空いてるのが興味深い
一歩亭
一歩亭立礼席
立礼席を見る

豊田市美術館を訪れた際には、見落としたくない谷口吉生さんの数寄屋建築・・ジャパニーズ・モダンの最高峰を設計した父親ゆずりの巧みさ。

「建築探訪 147」-Aichi

豊田市美術館

開館から22年経っても・・”いつまでもモダン”な「豊田市美術館」。”美術館博物館”建築のマイスター・・谷口吉生さんによる設計。高台となった大きな人工池に面して配された「直方体の建築」。右手の本館とテラスを挟んで、左手に建つ別棟は”高橋節郎館”。その他、別棟で茶室建築(もちろん谷口吉生さんの設計)も有ります。長大な門型フレームが効いています。

豊田市美術館

谷口吉生さんのミュージアムと言えば・・「丸亀市猪熊弦一郎現代美術館」「土門拳記念館」「東京国立博物館宝物館」「ニューヨークMoMA」「京都国立博物館平成知新館」などなど。セラ、ルウィット、ビュレンなどの外廻りに置かれたミニマルな彫刻作品もgoodです。西側より見る・・門型フレームの向こうに、左よりアルミ張り、ガラス張り、石張りと、素材を変えた直方体が綺麗に並ぶ。

豊田市美術館

谷口さんの好きなグリーンスレートの石で覆われた・・大きな門型フレームで区切られたエントランスコートを見る。広い敷地に施された、外構デザインはシンプルですが、手が込んでいます・・デザインは世界的なランドスケープデザイナーのピーター・ウォーカー。

豊田市美術館

エントランスが、いつも控え目な谷口建築・・(エントランスは写真中央部に見える庇部のところ)大きな外部空間から建物内に入る時、ググッと一度スケールを絞り込むのは・・谷口さんの好きな手法。

豊田市美術館

エントランスコートを見る。この日は快晴、スクエアな建築のエッジが際立ちます。”東山魁夷展”の開催中ですが・・右手の四角い壁面に貼られた展覧会用のサイン、これが建物とどうも調和していない様な・・

豊田市美術館

建物を覆う”ガラスの大壁面”。しかしながら、谷口建築はいつもいつも・・どこを見に行っても、気持ちいいくらいに・・”キチッと“納まっている。

豊田市美術館

2階通路部を見る。内側から見た”ガラスの大壁面”・・もちろん内外の2重ガラスで構造体を囲った壁です。2階の通路部分は、コスースの壁面グラフィックと、ホルツァーの電光掲示板を、設えた常設のギャラリースペース。

「建築探訪 88」-Yamagata

土門拳記念館

山形県酒田市にある写真家土門拳の資料保存と展示の為に作られた・・1983年竣工の谷口吉生さんが手掛けられた初めての美術館・・「土門拳記念館」。
(上写真) 池に沿って建てられた長い壁が印象的な・・抽象性の高い外観。ちなみに、池は新たに作られた人口池・・長い壁の右手がエントランス部分。中庭が見える長い壁の開口部の左手に突き出た四角いヴォボリュームが記念室と視聴覚室・・外部から内部まで、中庭を中心として動線がめぐる構成・・池に建物が浮いている姿を池越しに眺めると・・その様は宇治平等院の構成を思い起こさせます・・

土門拳記念館
(左) 長い壁の内側にあるアプローチ空間・・突き当たりには中庭
(右) エントランスまわりの外観を見る

外部内部ともに建物全体の構成は・・日本の伝統的な空間特性が強く意識された・・”見え隠れ” しながら、”奥”を常に感じさせる・・その後の多くの谷口建築につながっていく大きな特徴である・・回遊性が強く意識された構成。建築の意匠表現は・・来訪者と周辺環境との関わりや、鑑賞者の作品鑑賞を・・妨げる事のない様、極力抑えた簡潔なものとする事を意識されたそうです。

土門拳記念館
(左) 外壁の出隅詳細を見る。外壁はポルトガル産花崗岩(シェニート・モンチーク)JP仕上げ
(右) 縦長の窓を見る。下はFIXで上部が排煙用で開くのかなぁ・・コールテン鋼のようです。厳選された質の高い素材の選択も谷口建築らしい・・  
土門拳記念館
(左) エントランスホールを見る。奥に中庭。
(中・右) エントランスホールに置かれている椅子の詳細・・ ケアホルム的なんだけど、ケアホルムではないよね? 誰のデザインだろうかこの椅子は?

しかしもう30年前の作品なんですねぇ・・古さを感じさせない建築ですよね。やっぱりモダニズム建築のシンプルさというのは持続的な永遠性・・クラシックな感覚に支えられているんだなぁ・・と改めて思いました。

「建築探訪 83」-Tokyo/ 青山 2

フォーラムビルディング

谷口吉生の設計による「フォーラムビルディング」(2011)・・ 青山通りに面した12階建ての賃貸オフィスビル・・ 一見シンプルなビルに見えるのだけれども、ただならぬシンプルさの感じが漂っています。何と言ったら良いのだろうか・・ 詳細納まりや予算や構造や法規など他・・様々な面倒な事をあまり考えずに、頭の中でイメージしたような理想形が・・ 現実としてポンと建っているような・・
(上写真) 北東側の外観を見る。外装はブラスト処理のステンレス板 t=5mm、高透過の耐熱強化Low-E複層合わせガラス。

フォーラムビルディング

しかしそれは逆で・・考えて考え抜いて、ここまで・・ 非現実的とも感じられる程の精緻な完成度の高さが・・ 頭で描いたままの様な、理想通りの姿とも感じさせているのだと思います・・ 1階以外は縦も横も同じ3600mmグリッドで揃えた建物、柱梁はどちらも見込み見付け寸法が同じ400mm・・ これはなかなか出来そうで出来ない事・・普通に見えている事が実は全く普通でない・・隙のないクールでシャープな谷口建築。 ・・なんとなくカッターネオ に似てる?
 (上写真) ピロティを見る。周囲に対して開放的な1階まわり、右手にエントランス。

フォーラムビルディング
北西側より外観を見る・・ デザインの要素としては、柱梁とガラス開口の2つしかない訳で・・ ひたすらにベストなプロポーションを追求する事に全力を注いだかの様な建築・・もちろん原寸モックアップにて検討されたそうです・・  左側の控えめに上品に建っているビルは、吉村順三の設計による「青山タワービル」(1970) 。
フォーラムビルディング
外部空間と連続性のあるピロティ下、エントランスを見る。半蔵門線の外苑前駅を降りるとすぐという好立地の建物。右手の小さな通りの向こうに見える竹林は「梅窓院 (隈研吾の設計) 」へのアプローチ
フォーラムビルディング
エレベーターの表示もとてもシンプル・・確かに矢印マークがなくても分かるしね・・上は上だし、下は下なんだから、これで事は足りているよね

「建築探訪 58」-Tokyo/上野

東京国立博物館法隆寺宝物館

谷口吉生さん設計の「東京国立博物館 法隆寺宝物館」(1999) を探訪。
建物は上野公園内の奥の方・・すぐ側には父である谷口吉郎が設計した「東京国立博物館 東洋館」(1968) があり・・父子の建築による競演。展示品である法隆寺の300点にものぼる貴重な宝物は・・明治初めの廃仏毀釈で中で仏教への風当りがとても強くなった際、法隆寺を荒廃から救う目的で皇室に献納され、戦後国有となったものだそうです。
(上写真) 谷口さんの好きな “門構え” の構成によるファサードを見る。展示室である箱ヴォリューム、エントランスであるガラスのヴォリューム、そして大きな庇・・この3つの要素を対称形とせずに、ずらしながら奥行感を付けながら・・の雁行的な構成がgoodです。建物前の池もファサードを引き立てていますよね・・

(左) 門構えの大庇は、側面までグルッと廻るL字型
(右) 大庇下の鳥籠のような細かい線材によるガラススクリーン部を見る。池超しに建物を眺めながら、何度か方向を変え、池の中を渡る様にして建物へと至る
半屋外的な庇下の空間。下部のみは見通しを通し、上部は密で細かな間隔とした雪見障子的な感じのガラススクリーン (下部ガラスは高透過強化ガラス t=10のFIX) 。上部の縦桟は30mm×145mm @180mm、30mmの見付けで150mmの空き。この縦桟はガラスの前面にある格子ではなく、サッシそのものなんですね・・
エントランスホールを見る。石張り(ライムストーン ジュライエロー水磨き t=50!! )の右手壁が展示室・・ 床は花崗岩(ベルファーストブラックバーナー仕上げ t=30!! ) 。このガラスBOX空間を支えているスチール柱梁は100×200mmの無垢材!!  

大庇部と、ガラス箱部と、石張りの展示室部と、分かり易い3つのヴォリューム構成による組立て。シンプルで機能的、無駄のない、厳選された素材と部材による、見事な谷口さんの建築は・・作品集などの写真で見るよりも、実際の方がずっといい・・写真では見えにくい繊細なディテール、写真では分かりにくい素材のテクスチャー、現場でしか感じられないヴォリュームやスケール、周囲環境との関係性 などなどが・・きっとよくよく丁寧に検討されているからなんだと思う。表現を抑えた抽象形のプロポーション、素材の実在性、光とヴォリューム・・建築の基本とも言える要素が大切に考えられている・・この建物はとても素敵。

「建築探訪 57」-Hiroshima 2

広島市環境局中工場

谷口吉生さん設計の「広島市環境局中工場」(2004) を探訪。美術館建築の名手が ”ゴミ焼却場” を手掛けると、こんなにもスタイリッシュになるんだ・・

(上写真左) 広島市の中心から、湾岸へと伸びる大きな道路の都市軸に対して、直角に配された直方体ヴォリューム・・道路はそのまま建物内部へと吸い込まれて通路へと繋がり、その通路は建物向こう側の湾岸まで突き抜けていく。
(上写真右) 湾岸側まで突き抜けてきた通路。外壁はステンレス製の波型板張り

広島市環境局中工場
建物内の通路を見る。通路はガラス張りのギャラリーになっています。ガラスの向こうでは焼却炉、排ガス処理設備、灰溶鉱炉といった巨大な機械たちが働いています
広島市環境局中工場
透明なガラスに貼られた透明な文字、ecoriumのm部分

ガラス張りのギャラリー部は、「ecorium」と呼ばれる環境展示施設のミュージアム・・建物全体のサイン計画、ロゴデザイン、イラストや文字といった展示説明デザイン、などなどは全て著名なデザイナー/アートディレクターである 八木保さんが手掛けられたそうです。

「建築探訪 29」 -Kagawa 4

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館

「丸亀市猪熊弦一郎現代美術館 (’91)」(設計:谷口吉生) はとても素晴らしい美術館・・ 個人的にはかなりお気に入りの建築。
(上写真)ファサードを見る。黄色い彫刻は「星座」 右のは「シェルの歌」
普通ならばホテルやデパートが建つ駅前というロケーションや街に対して・・駅前から美術館まで一体がひと続きとなったデザインとした事、屋外彫刻を配したこのガランとしたスペースを設けた事、子供の落書きの様に自由なインパクトのある大壁画を設けた事、このファサードの大きな構え方・・・・ どこにでもある様な均質化した駅前とは違った “美術館がある駅前” という新しい場所性/風景を生み出す事に・・成功しているように思えます。

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
入口部分を見る。大きなファサードとは一転して、入口はとても小さい・・花崗岩の床、コンクリート打放しの壁、大理石の壁画壁、アルミパネルの庇。左側の階段は、建物の長手を貫き、3階の最奥にある屋上広場までつながっている “大階段”。
丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
小さな入口を抜け、エントランスホールに入る・・ここも高さを抑えた空間。その先への広がりを予感させる、3段だけ上がったスペースへと自然と引き寄せられる。床/巾木はライムストーン、壁/天井は塗装仕上げ
丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
上階の展示室へと繋がる階段と吹抜け。
幾何学的な理性が支配する、抽象的で洗練されたデザインスタイルは、”ザ・モダン” と言ってもいいと思うのだが・・ 次なる空間へのつながりが常に期待させられる様な空間構成を、建物にてリアルに感じていると・・ そのデザイン思想の根幹には “日本的感性” が強く浸透しているように思えま
丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
9m以上はある、天井が高い2階展示室を見る

「この美術館の設計は時間がなくて完全に煮詰まっていない所が多いのだが、それがかえって建築を大らかな感じにしていて、そこが良かったのだ」と谷口吉生さんは仰っているのだが・・ どこがどこがという感じ・・細かな所まで完璧主義が貫かれた、あいかわらずの精緻極まりない谷口建築の見事さ・・ 

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
2階展示室の全体を見渡す

設計者である谷口吉生は猪熊弦一郎から「日本の建築はこまごまとして、スケールが小さい・・スケール感だけは大きくして欲しい。大きなスケール感がある建築で、光がよければ、あとは一切任せる」と言われ・・ “大きなスケール感”を出す為の、「プロポーションの決定」や「素材の使い方」に設計の多くの時間をかけたそうだ。

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
 “大階段” の2階部分を見る。置いてある彫刻は「草」

「建築にはいろいろな様式・・賑わしては消える流行の様式・・しかし最終的に建築の良し悪しを決めるのは、やはりプローポションと光と素材、あるいはスケールとテクスチャーなど基本的なこと・・ 」 by 谷口吉生

猪熊弦一郎美術館では「子供から入場料を取ってはいけない。少しでも取ってしまえば、よほどでないと来られなくなる。タダなら学校の帰りだろうと何だろうと、いつも寄ることが出来る。そういう風に見て貰わなくちゃいけない・・」との猪熊弦一郎さんの意見から、高校生以下は入場無料となっています。こんなに素敵な美術館に、倉敷からは1時間くらいで行けるので・・ LUCKYです。