「建築探訪 171」- Gunma

太田市美術館・図書館

群馬県の東武線太田駅を降りると、眼の前・・1971年生まれの建築家/平田晃久さん設計の「太田市美術館・図書館 (2016) 」を探訪・・外観からして普通ではない感じ・・

太田市美術館・図書館
建物の外周を・・いくつものスロープや階段が積層回遊している・・しかも内部は透け透け。内部に置かれている物が外部からもハッキリと見えています・・
太田市美術館・図書館
外周部分は鉄骨造で、コアのような内部の箱はコンクリート造・・・外周を巡るスロープや階段は・・屋上庭園まで繋がっていく・・「5つのコアとなるボックス」の廻りを「複数のグルングルン動線」で覆ってしまった様な・・見慣れない不思議な感じ・・
太田市美術館・図書館
エントランス付近を見る。左手の柵で囲われた部分は1Fカフェのテラス席。気持ちのいい晴天で、建築が映えます・・
太田市美術館・図書館
左手に図書館のBOX、右手には美術館のBOX・・BOX、螺旋階段、スロープなどが交差して・・様々な要素が行き交っている・・1Fの建物中央部の吹き抜けを見る。

駅前の風景ははやや閑散・・内部に入ると、例えが上手くないけど「活気のある都市のミニチュア」のような感じ・・・駅前から建物内へと自然に続いていった先が「立体的に凝縮された街の延長」という・・感じがgood。

平田さんの建築的キーワードで語るならば・・“生きている建築”・・アルゴリズム的な形式的一貫性を持った建築ではなく、それぞれの固有性を活かしたまま、“からまりしろ”のある、“ニッチを最大化”できるような・・“生きている建築”・・「”個”が織り成す生態系のような建築」

太田市美術館・図書館
グルングルン動線は・・ただ外周部を廻っているのではなく・・その広い動線スペースは、様々な人に向けた多様な居場所を形成していました。外部と一体化したようなギャラリー的スペースであったり・・
太田市美術館・図書館
本棚がぎっしりと並べられているスペースであったり・・床が傾斜したスペースの連続って・・訪れる前は、それってどうだろうと、思っていたけれど・・・
太田市美術館・図書館
いろんな種類の椅子が置いてあったり・・どこにいても結構楽しい。どこにいても別のスペースの様子がチラリチラリと見えて・・・建物内の全てのスペースが、立体的に共存しているようで・・そんな感じが、不思議に居心地が良かったです。(道路にあるようなカーブミラーは、案内サインになっています)

普遍的な美学や価値観から離れたところ・・了解可能性がまだ見えてないような「多様で複雑でゴチャゴチャして意外な」あたりで・・新しい建築のタイポロジーを発見しようという、変わることのない意志の強さ・・これからの世代を代表する建築家のマイルストーン的作品・・に感服した、建築探訪でした。

太田市美術館・図書館
管理上の理由とか何とか言って・・公共施設では”出られない屋上”が多いのだけれど・・ここは、誰でも自由に上がって来られる・・屋上庭園ランダムに散りばめられた・・白いボックスは照明器具の様です。

小規模な駅前の公共施設だけれども・・駅前の賑わいを取り戻す可能性を十分に感じさせる・・楽しく、居心地の良い建築・・他の町にはない風景(経済的原理や標準化が作り出す慣用句的な風景とは違う)・・ここにしかないという建築・・がgoodでした。

「建築探訪 144」- Gifu

みんなの森ぎふメディアコスモス

伊東豊雄さん設計の「みんなの森 ぎふメディアコスモス」を探訪。市役所、市民会館、裁判所、税務署、警察署などが集まる岐阜市の中心市街地に建つ、2015年7月にOPENした・・2階全フロアを占める図書館を核に、1階には市民のためのギャラリーやホール、スタジオや交流センター、コンビニやスタバなどなども入った・・とても大きな複合施設。80m×90mという方形を2層重ねた、シンプルな構成の建物。

みんなの森ぎふメディアコスモス
建物の周囲には・・並木道、せせらぎ、デッキテラス、広場なども設けられていて・・とてもいい感じ
みんなの森ぎふメディアコスモス
1階エントランスホールを見る。床面に描かれた、各スペースへの方向を示す「丸サイン」が、視認性が高い&分かり易く・・goodです
みんなの森ぎふメディアコスモス
建物の中核である、図書館スペースのある2階へ・・大きな傘が!!!
みんなの森ぎふメディアコスモス

全く壁のない、80×90mのワンルームの開架エリアに・・いくつもの「”グローブ”と呼ばれる巨大な傘」が、天井から吊られている、2階の眺めが圧巻です。そしてこの「うねっている木製天井」・・厚さ2cmの板で組み上げた「三角格子」を積層させたという天井!!!!! 凄いです!!!!!

みんなの森ぎふメディアコスモス
“傘”はポリエステル製の布で出来ていて直径は8~14m
みんなの森ぎふメディアコスモス
机中心のコーナー、ベンチ中心のコーナー・・性格やしつらえの異なる、それぞれのコーナーを覆う・・デザインの異なる”傘”が11個!!!
みんなの森ぎふメディアコスモス
起伏のある床がオモシロイ・・小さな子供のいる親子中心のコーナー
みんなの森ぎふメディアコスモス
こんなに大きな傘ですが・・柱など下部からの支えはなし。本当に、上から吊っているだけ
みんなの森ぎふメディアコスモス
籐で編まれたgoodな椅子が並んだ・・視聴覚コーナー
みんなの森ぎふメディアコスモス
2階カウンターのコーナー。外周に面した席も、たくさん用意されています。(下)1階、円形テラスに面したコーナーには、畳床もあり
みんなの森ぎふメディアコスモス

とにかく、広い建物の内外あちらこちら・・変化のある様々な居場所に、たくさんの席と活動の場を、用意されていたのが・・印象的でした・・閉館時間も21時(閉館日は月1回)という、市民利用(岐阜市民は40万程で倉敷市と同規模・・)を優先した開館。”みんなの森”というだけは、ありました。

「建築探訪 135」-Yamaguchi 3

山口県立図書館

「山口県立図書館」(1973) を探訪・・設計は鬼頭梓さん。様々な量感がポコポコした外観・・タイル壁に挟まれたサッシュ部が正面入口(西面)。平面的に見ても、様々な室のヴォリュームがポコポコとした形になっています。

山口県立図書館

東側の入口より見る・・正面奥が西側の正面入口。右上に見える大きなトップライトと、このトップライト下にある中央ホール(開架室)が・・建物の中心となります。この微妙な階高設定の・・中央ホールの絶妙な位置付けが、この建築の居心地良さの・・要となっている様な気がします。

山口県立図書館

(左-写真)中央ホールには、スロープでアクセス。(右-写真)中央ホールから2階にも、スロープでアクセス。スロープ横のコンクリート壁が・・いい「ハツリ」具合です。スロープを中心とした建物構成も・・この建築の要。写真では分かり難いですが、天井は格子状ルーバーになっています。

山口県立図書館

2階より見る。中央ホールに面してグルリと廊下が廻っているのですが・・その廊下には様々な読書コーナーが幾つも、趣きを変えながら配置されていて・・very goodです。外部窓に面した机のコーナーや、廊下の腰壁に隠れる様に配されたプチコーナー・・

山口県立図書館

開架書庫の側に配されたベンチソファのコーナーや、光庭に面したラウンジソファのコーナーなどなど・・そして更に、廊下廻りから、まとまった大きさのある各室が・・四方八方へと繋がっていく、広がりのある伸びやかな図書館となっています。

山口県立図書館

図書館建築のパイオニアであり、名手でもある鬼頭さんが手掛けた図書館建築は “訪れた人を暖かく迎え入れる” ・・とても居心地の良い、とてもniceな建築でした!!! ・・が、その本当の良さは、写真や説明文では上手く伝えられない・・体験してみないと、その良さが分からない・・”建築らしい建築” 。

「東京経済大学図書館(’62)」から始まり「山梨県立図書館(’70)」「東北大学図書館(’72)」「山口県立図書館(’73)」、そして「日野市立中央図書館(’73)」・・生涯に30を超える図書館建築を手掛けられた、鬼頭梓さんが言われていた「図書館建築で大切な事」とは・・

山口県立図書館打込みタイル

“図書館員がしっかりしてくれている事が一番大切です”  との事・・デザインに対する主義主張は控え目で、設計方法論にも柔軟な・・鬼頭さんらしい言葉なのではないでしょうか。外壁のタイルは、鬼頭梓さんの 師匠と同じ “打込みタイル” ・・巾450×高150mmという、やや大きめのタイル。

「建築探訪 111」-Finland 3 / ALVAR AALTO 1

アアルト大学図書館

遂にやって来ました・・ アアルト建築は以前に一度訪れた事はあるのですが、やはり(アアルトの母国である) 本場フィンランドで見る方が、アアルト建築の真髄に触れられる気がするからなのか・・気持ちとしては 初アアルト建築 !!! 
1949年のコンペで、フィンランドを代表する世界的な建築家アルヴァ・アアルト(1998-76) が勝利・・本館、講堂、図書館、学生寮、体育館、実験棟、発電施設、生協棟などからなる・・「アアルト大学(元 ヘルシンキ工科大学)」を探訪・・ (上写真) 1969年完成、図書館の外観を南側から見る。  

アアルト大学図書館

北西側から外観を見る。地上2階 地下2階の建物。事務的なスペースは地上部1階にまとめて、階高を高く取った2階に閲覧室を配置。2階の閲覧室は西側の階高が一番高く、東側に向かって段々と階高が下がっていきます。北西側から見ている上写真では、1階に較べて2階は倍以上の高さがある事、2階の階高が手前から段状に奥(東)へと下がっていっている事が・・よく分かります。黒い石張りの下層部でやや抑えて、上層煉瓦ヴォリュームをやや浮かした感じ・・ 

アアルト大学図書館
東側から外観を見る。こちら側から見ると、2階の階高は西側よりかなり下がった事が分かります。帯状デザインで立面に動きを出している部分・・煉瓦を部分的に白くペイントしているのかと思いましたが、白大理石が張られています
アアルト大学図書館
東側から外観を見る。この辺りは地盤面が下がっているので、地上3階。この後たびたび出会った “アアルトらしい窓” ・・「縦長換気窓+嵌殺し」の連続で構成された木製水平連続窓・・は煉瓦腰壁との構成がgoodです
アアルト大学図書館
東側外観の詳細を見る。窓と窓の間の・・プチ壁は角波金属板張り、水切りも同材、木製窓とともに・・クラフト感が出ててgoodです。煉瓦+木+金属・・どのアアルト建築にも共通する、アアルトらしい素材感
アアルト大学図書館
図書館はキャンパス全体の南側エッジ・・バス停もすぐ側にある、人の往来も多い所に位置しています。(上写真) 図書館のメインエントランスへ向かうアプローチを見る。建物の長手軸に対して真直角ではなく、微妙に角度を振っているアプローチ軸
アアルト大学図書館
金属板張りの丸柱が並ぶ、キャノピー下のメインエントランス
アアルト大学図書館
ガラス張りのエントランスから、光がたくさん差し込んで・・とても明るい 1階のメインロビーを見る。右手には2階閲覧室へと至る、緩やかな階段
アアルト大学図書館
階段を上がると、2階フロアの中心部分。ハイサイド窓から差し込む大量の光が照らす、曲折した大きな天井面が占有する空間・・正面には貸出カウンター
アアルト大学図書館
2階フロアの中心部分から左側(東側)を見ると・・ ポチ丸の天窓が並んでいるその向こうには、天井高を抑えた閲覧室。奥の方には東面の水平連続窓に面した読書カウンター席。(これだけ天窓とハイサイド窓が多い空間なので、水平連続窓が必要? って気もするが・・) 
アアルト大学図書館
2階フロアの中心部分から右側(西側)に位置する・・ 2階フロアで天井高が一番高い、ハイサイド窓とストライプ状天窓がある閲覧室。こちらの室はガラス壁で間仕切られていて・・自習室のような感じ。 
アアルト大学図書館
建物の長手軸方向であるハイサイド窓に対して、微妙に角度を振っている書棚の配置が・・アアルトらしい
アアルト大学図書館
背丈程の高さまで、”アアルトタイル” が巻かれた丸柱
アアルト大学図書館
天井面の単調さを補いながら、空調などの設備機器を隠している・・天井ルーバーは室内の音響効果にも良いのかな。窓際に吊られた照明器具・・もちろんアアルトのデザイン

日本で見られるアアルト建築の資料としては「a+u(1977)」「SD(1983)」などの作品集がよくまとまっていて便利なのですが・・ひとつの建物に対する写真や図面などの数量は限られ、写真も白黒だったり解像度も低かったり・・30年以上前の古い作品集をいくら凝視しても、なかなか湧いてこなかった・・ アアルト建築のリアリティや空気感を、現地に立って初めて・・心身に深々と感じる事ができ・・ 本当に大満足。😭😭😃😃👏🏻👏🏻

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「建築探訪 104」Sweden 8 / Stockholm

t/rim designの、今年の年賀状にも使っていた建築・・ 「ストックホルム市立図書館(1928)」。設計はグンナール・アスプルンド(1885-1940)。一度見たら忘れられない原初的な幾何学形態による外観構成が目を引く (ブレーやルドゥーと言った18世紀の”幻視的建築家” のドローイングを思い起こさせずにはいない) ・・ 古典性を感じさせる堅固な外観でありながら、次なる時代のオーダーである”モダニズム性” も共存した・・アスプルンドの代表作。「図書館建築」としても一番と言っていいくらいに有名な作品 。(上写真) メインアプローチより建物正面(東面)を見る。

正方形平面の基壇に円筒形が載っている様にも見える外観ですが・・ 正確に言うと、基壇部は正方形平面ではなく”ロの字型平面” をしていて・・その”ロの字”の内側に嵌り込んだ円筒形が、1階から建ち上がっているカタチとなっています ・・ 飛び出した円筒形部分の高さは、基壇部の高さとちょうど同じくらいの高さに見えます。(上写真) メインアプローチからは反対側となる西面より見る。

外観を見ていても、内観を見ていても・・アスプルンドの作品というのは、たんに古典性でもないし、たんに近代性でもない ( 年代的にはコルビュジェやミースと言った近代建築の大巨匠とほぼ同年齢で・・ 大巨匠達がスパッと近代以前のものを断ち切った様に、時代の潮流としてはモダニズムが隆盛を極めようとしていた時期 )・・近代性と古典性の両者をうまく共存させようとしていた建築家。
(上写真) 黒い漆喰塗りの壁で囲まれたエントランスホール、装飾レリーフは何故かエジプトな感じ・・この建築は内部外部共に装飾はエジプト様式・・どうしてなんだろう?

エントランスホールより階段を上がると、見えてくる・・ 
有名すぎる “あの空間” !!! 
円筒形空間の壁面を覆い尽くす書棚・・ 吹抜け上部の縦長ハイサイド窓から差し込む光・・空間の中央に吊り下げられた照明器具・・ 非日常的とも言える円周式書庫に包まれた空間・・ 90年近くも前の建築とは思えない、今もぜんぜん元気な感じの空間。白い壁面部の波波が効いています。

圧巻の眺め。グルグルと廻りながら本を捜して、登っていく・・ 本好きの人が好きな本を探して廻り続ける? ・・ 図書館員からすれば、常に館内を一瞥でcheckできる管理しやすいパノプティコンな空間形式?。アスプルンドが管理面の効率性からこの様な室を設計したのか、または単に “完璧に本に囲まれた” ある種本好きには堪らない空間として設計したのかは・・分かりませんが、 一度見たら忘れられない・・圧倒的な空間。 

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「建築探訪 100」-Sweden 5 / Stockholm

セントマークス教会

シーグルド・レヴェレンツ(1885-75) の代表作・・「セント・マークス教会(1960)」。(上写真) 白樺の木立を背景に佇む・・赤褐色煉瓦に覆われた教会・・L字型をした建物の出隅部付近、礼拝堂アプローチから外観を見る。右側の高い部分が礼拝堂、左側の低い部分には教区ホールや学習室などが配置されています。アール壁の足元左側が礼拝堂への入口。

セントマークス教会
外壁は煉瓦煉瓦煉瓦・・全て同一の素材で出来た煉瓦の塊な訳ですが。近くでよく見ると、色々な形と大きさの煉瓦があり・・煉瓦組みにも色々と細やかな変化が・・派手やかさのない落ち着いた色あいの赤煉瓦・・
セントマークス教会
目地の詰め方がダイナミック!!  煉瓦のエッジが見えなくなるくらいの・・煉瓦のハッキリとした四角をぼやっとさせる様な目地の塗り方・・ざらついた大きめの目地は、煉瓦とは段差がなく・・同一面の仕上げ
セントマークス教会
いよいよ礼拝堂に入り・・祭壇方向を見る。暗いです!!! 写真で見るよりずっとずっと暗いです!!!  限られた開口から差し込んでくる光と煉瓦に囲まれた重厚な空間は・・さながらロマネスクの教会の様でもあります。しかし・・いい建築です。いい空間です。見に来て良かった・・
セントマークス教会
礼拝堂の天井は非常に特徴的な形をしています。変化をつけて短手に架け渡されたシャープな鋼製梁と、その間に架けられたヴォールト状の煉瓦天井の反復がつくる大小の波・・重たい煉瓦が波打つ・・印象的な天井
セントマークス教会
礼拝堂の中央部から側廊側を見る・・石灰岩の床、赤煉瓦の壁天井、木材による扉や家具・・この建築の竣工年である1960年という時期を考慮すれば、かなり古めかしい仕上がり様とも言えますが・・ 厳選された素材による構成は美しい
セントマークス教会
とても50年程前に出来た建築とは思えない・・もっと昔からここに在った様な感じ・・時代性を超えた存在感がある建築・・ (上写真) やや天井が低い側廊部の正面を見る。雁行して建ち並ぶ煉瓦壁の間・・縦長窓から強い光が差し込んできます
セントマークス教会
側廊部にスタッキングされていた椅子。T字型の背と座面が一体になった成形合板の作りは・・アルネ・ヤコブセンのデザインによる「T-chair」。70年代に入るとT-chairは廃番になっていたそうなので・・竣工当時のものだろうか?  建築によくマッチしています
セントマークス教会
祭壇横の窓を見る。窓枠が消えた開口部は、ガラスがない様に見せる納まり・・光が綺麗に差し込んできます。シーグルド・レヴェレンツという建築家について、詳しい資料や書籍はそんなに多くはなく・・建築家自身の著書などもあまり眼にした事もないのですが・・レヴェレンツという建築家はきっと寡黙で、無駄な事は口にせず、黙々と仕事に没頭している様なタイプの人だったんだろうなと・・ 訪れた建築の印象だけからの勝手なイメージ・・
セントマークス教会
教区ホールのエントランス部には大きな木製の庇。右側の中庭を挟んで建っているのは教区事務棟・・ もっともっと紹介したい部分や興味深い詳細は色々と在るんですが・・ とりあえず、これくらいで
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「建築探訪 64」-Shimane 5

島根県立図書館

日が暮れてしまったけれども・・菊竹清訓の設計による「島根県立図書館」(’68)を 探訪。「都城市民会館」(’66) と共に菊竹清訓さんのメタボリズムが実践された作品・・都城と比べるとこちらの方が表現としてはかなりオトナシイ感じがしますが、構成としては同じカタチ・・ 都城と同じく コンクリート基壇 + 鉄製の上部構造 。

島根県立図書館

外部から見ても、内部から見ても、その建築的構成は明瞭。
(上写真) エントランスホールよりダイナミックな広がりのある内部空間を一望。竣工時の写真を見ると、もともとの屋根は鉄骨部材が全て露わしで・・建築のコンセプトがより強く表現されていましたが、現在は大きな梁だけが露わしで梁間は白い天井材が貼られていて・・残念。

田部美術館/島根県立博物館/島根県立武道館
島根県にある菊竹さんの作品をいくつか探訪。
(左)「田部美術館」1979
(中)「島根県立博物館」1959
(右)「島根県立武道館」1970 

「建築探訪 06」 -Kanagawa

神奈川県立図書館・音楽堂

神奈川県立図書館・音楽堂(’54) 設計: 前川國男へ行ってきました。
(上写真) 音楽堂を正面から見る。日本近代建築の名作。

前川國男(1905-86) は近代建築の巨匠ル・コルビュジェに学んだ日本人最初の弟子。1928年、コルビュジェにとって「白の時代」と言われるシンプル/ホワイト/キューブの住宅ばかりを設計していた時代が終わろうとしていた頃・・乾式工法住宅や土着的要素を取入れた住宅へとコルビュジェの作風が移っていった頃・・前川國男は卒業式後すぐに旅立ち、シベリア鉄道に乗り・・ パリのコルビュジェのもとへ。1930年に帰国。

帰国後に前川が完成させた処女作「木村産業研究所(1932) 」はまさに “コルビュジェ風”でした。・・ 帰国後も、戦中は仕事もなく・・実現されそうにもないコンペに、”新しすぎて”当選しそうにもない”コルビュジェ風の近代建築”を提案し続けたり。戦後も・・ 資材統制により木造の小規模建物しかできない状況で”木造モダニズム建築”を模索したり。苦しい時期が長く続きました。

神奈川県立図書館・音楽堂
正面が図書館。右側が音楽堂

コルビュジェに学んだ「近代建築」を力の限りに、やっと実現できたのが・・この「神奈川県立図書館・音楽堂」。前川が得意とする「卍型の一辺で配置した非対称型プラン」・・内外へ流動するような、透明感あふれる端正な空間 ・・前川にとっても珠玉の作品。清楚に咲いた日本近代建築の清純な花といった感じ。

神奈川県立図書館・音楽堂
音楽堂のホールを見る。床のテラゾーが素敵です。
神奈川県立図書館・音楽堂
図書館の入口を見る

この後には、1960年の「京都会館」、1961年の「東京文化会館」 などで、続けて建築学会賞を取るなど・・大活躍の前川國男。

しかし、少しずつ人間性を失っていった近代建築に限界と矛盾、絶望と無力感を抱きはじめていた。・・前川の作風に「庇」や「勾配屋根」や「タイル」など、近代建築の言語ではない要素が少しづつ取り入れられ。・・「希望に満ちた近代建築」の理想主義的な拘束から逃れ、地域性に考慮された現実的な「日本においての近代建築」を実現させようと大きく作風は変化していきました。

70年代の「埼玉県立博物館」や「熊本県立美術館」や「福岡市美術館」こそ、熟練の域に達した前川建築の神髄ではないでしょうか。・・前川さんの建築は、同時代の流行に敏感だった弟子でもある丹下健三(1913-05)の派手さと比べると・・地味でその良さを言葉で説明するのも難しく。私も学生の頃は興味もなく・・良さも分からなかったのですが、仕事を始めてからだんだんと興味が沸いてきたという感じです。