
芸術の秋なので、建物や展覧会等をまとめて見て来ました・・リニューアルオープンした東京都美術館の「メトロポリタン美術館展」や、デンマークの若手建築家ビャルケ・インゲルスの「Yes is More展」などなど・・ しかし今回のメインとして期待していたのは「ル・コルビュジェの家」という映画 。”隣人は選べない” というコピーが意味するところは・・主人公であるレオナルドは椅子のデザインで大成功を収めたプロダクトデザイナー。その成功の証として彼が家族と住んでいる邸宅は、近代建築の大巨匠ル・コルビュジェにより60年以上前に設計された「クルチェット邸」。しかし、ある朝突然に隣から響いてきた強烈なハンマーの破壊音・・隣人がいきなり我が家へ向けて窓を作ろうと壁に穴を穿ってきたのだ・・見慣れない強面で屈強そうな男が「ちょっと光を入れたいだけだ」と・・ そこからレオナルドの暮らしは掻き乱され始める・・ 「ル・コルビュジェの家」は邦題、原題は「エル・オンブレ・デ・アル・ラード」(隣の男)。

映画自体はブラックユーモアの効いたシュールでシリアスな心理ドラマとして、それなりに楽しめるのですが・・この映画で大活躍するもうひとりの主役が ル・コルビュジェ設計の「クルチェット邸」(1949) 。映画の大半のシーンがこの住宅を舞台に撮影されています 。ブエノスアイレスにあるこの建築は、普段は資料館として公開されているそうです 。

「クルチェット邸」は斜路が構成の中心となった住宅。大きな樹がある中庭と斜路で建物は二分され、道路側には、1階に車庫とエントランス、2階に診療所スペース、3階に屋外テラス。中庭と斜路を挟んだ奥には、1階に控え室、2階に玄関、3階にLDK、4階に寝室という構成。

斜路を中心としたコルビュジェの住宅といえば「サヴォワ邸」(1929) をまず思い浮かべますが・・ コルビュジェが白い四角い住宅をたくさん設計していた1920年代からは20年も後の作品。42歳の時に設計した近代住宅建築の金字塔と、62歳の時に設計した熟練の作品。20年の時を隔てた “コルビュジェの2つの斜路中心型住宅” の空間の違いを比較しながら、映画を見るとおもしろさ倍増かもしれません・・ こちらも斜路中心のコルビュジェ建築・・