「建築探訪 60」-Tokyo/上野 2

国立西洋美術館

近代建築の巨匠 ル・コルビュジェによる「国立西洋美術館」(1959) を探訪。もちろんですが、日本にある唯一のコルビュジェ作品 です。国立西洋美術館が創設された経緯は、戦後間もない頃に吉田茂首相がフランス政府に、世に言う松方コレクションの返還を求めたことから始まる・・フランス側からの返還条件の一つが美術館の建設でした。

1955年に68才だったコルビュジェは、敷地調査のため初来日・・わずか7日間の滞在となり・・その後は2度と日本の土を踏む事はありませんでした・・ですのでもちろん完成した建物を実際に訪れて眼にする事もなかったのです。設計も基本設計図程度で、実施設計は日本側に任せ・・ フランスから遠い日本でこの美術館が実現できたのは、かつてフランスのアトリエでコルビュジェから建築を学んだ、弟子たち (前川國男/坂倉準三/吉阪隆正) が日本で頑張ったからこそ。
(上写真) 1階のピロティ部は後の改修でほとんどが内部空間に変わってしまいました・・当初は1階の半分くらいまでは屋外空間でした・・前庭の屋外床がずずっと建物下まで入り込んでいたそうです。コルビュジェの代名詞とも言える “ピロティ” が・・

大きな三角型トップライトと吹抜けがある中央ホールを見る

渦巻き状の動線システム、1階から2階へのゆっくりと上がる大スロープなど・・コルビュジェらしい建築言語がきちっと具現化しています。
ロの字型の動線計画、ピロティで持ち上げられた直方体、建物正面の四角い開口、建物中央の吹抜けなど・・ 坂倉準三の「神奈川県立美術館」と似ているところはさすがに多い。

「建築探訪 59」-Hiroshima 3

広島平和会館資料館

丹下健三の「広島平和会館資料館」(1952) を探訪・・ もちろん平和記念公園全体も1949年に行われた設計コンペで、当選された丹下健三さんによる設計です。どこの丹下建築を訪ねても多くがそうである様に・・作品集で見られる様な、竣工時の緊張感に溢れた、迫力ある、厳しく、美しい姿は・・ 今は感じられませんでした。戦後もっとも早い時期に国際的評価を受けた日本の近代建築・・ 建築家 丹下健三の出発点。

広島平和会館資料館
(左) 作品集で見られるかつての姿では・・2階は透明ガラスに水平ルーバーを設けた構成で、外部から内部が見えて、内部から外部が見える “透けた箱” でしたが・・
(右) 独特のかたちをした、1階のピロティ中央部を支える8本の “くさび型柱”・・出隅の柱4本はさらにユニークなかたち・・ 丹下さんの憧れでもある 建築家ル・コルビュジェのピロティ柱を連想させます
広島平和会館資料館
建物の出隅部分を見る。もともとの仕上げであるコンクリート打放しの上に、石を張った改修の様子がよく分かる。水平ルーバーは撤去。ガラスは色の付いたものとなり内側には内部展示室を囲っている壁がすぐに見える。外部から内部 or 内部から外部の様子は見えない・・  改修後は “閉じた箱” になってしまいました。

「建築探訪 58」-Tokyo/上野

東京国立博物館法隆寺宝物館

谷口吉生さん設計の「東京国立博物館 法隆寺宝物館」(1999) を探訪。
建物は上野公園内の奥の方・・すぐ側には父である谷口吉郎が設計した「東京国立博物館 東洋館」(1968) があり・・父子の建築による競演。展示品である法隆寺の300点にものぼる貴重な宝物は・・明治初めの廃仏毀釈で中で仏教への風当りがとても強くなった際、法隆寺を荒廃から救う目的で皇室に献納され、戦後国有となったものだそうです。
(上写真) 谷口さんの好きな “門構え” の構成によるファサードを見る。展示室である箱ヴォリューム、エントランスであるガラスのヴォリューム、そして大きな庇・・この3つの要素を対称形とせずに、ずらしながら奥行感を付けながら・・の雁行的な構成がgoodです。建物前の池もファサードを引き立てていますよね・・

(左) 門構えの大庇は、側面までグルッと廻るL字型
(右) 大庇下の鳥籠のような細かい線材によるガラススクリーン部を見る。池超しに建物を眺めながら、何度か方向を変え、池の中を渡る様にして建物へと至る
半屋外的な庇下の空間。下部のみは見通しを通し、上部は密で細かな間隔とした雪見障子的な感じのガラススクリーン (下部ガラスは高透過強化ガラス t=10のFIX) 。上部の縦桟は30mm×145mm @180mm、30mmの見付けで150mmの空き。この縦桟はガラスの前面にある格子ではなく、サッシそのものなんですね・・
エントランスホールを見る。石張り(ライムストーン ジュライエロー水磨き t=50!! )の右手壁が展示室・・ 床は花崗岩(ベルファーストブラックバーナー仕上げ t=30!! ) 。このガラスBOX空間を支えているスチール柱梁は100×200mmの無垢材!!  

大庇部と、ガラス箱部と、石張りの展示室部と、分かり易い3つのヴォリューム構成による組立て。シンプルで機能的、無駄のない、厳選された素材と部材による、見事な谷口さんの建築は・・作品集などの写真で見るよりも、実際の方がずっといい・・写真では見えにくい繊細なディテール、写真では分かりにくい素材のテクスチャー、現場でしか感じられないヴォリュームやスケール、周囲環境との関係性 などなどが・・きっとよくよく丁寧に検討されているからなんだと思う。表現を抑えた抽象形のプロポーション、素材の実在性、光とヴォリューム・・建築の基本とも言える要素が大切に考えられている・・この建物はとても素敵。

「建築探訪 57」-Hiroshima 2

広島市環境局中工場

谷口吉生さん設計の「広島市環境局中工場」(2004) を探訪。美術館建築の名手が ”ゴミ焼却場” を手掛けると、こんなにもスタイリッシュになるんだ・・

(上写真左) 広島市の中心から、湾岸へと伸びる大きな道路の都市軸に対して、直角に配された直方体ヴォリューム・・道路はそのまま建物内部へと吸い込まれて通路へと繋がり、その通路は建物向こう側の湾岸まで突き抜けていく。
(上写真右) 湾岸側まで突き抜けてきた通路。外壁はステンレス製の波型板張り

広島市環境局中工場
建物内の通路を見る。通路はガラス張りのギャラリーになっています。ガラスの向こうでは焼却炉、排ガス処理設備、灰溶鉱炉といった巨大な機械たちが働いています
広島市環境局中工場
透明なガラスに貼られた透明な文字、ecoriumのm部分

ガラス張りのギャラリー部は、「ecorium」と呼ばれる環境展示施設のミュージアム・・建物全体のサイン計画、ロゴデザイン、イラストや文字といった展示説明デザイン、などなどは全て著名なデザイナー/アートディレクターである 八木保さんが手掛けられたそうです。

「建築探訪 55」-Kumamoto 3

熊本県立美術館分館

「熊本県立美術館 分館」(1992) を探訪。
スペイン人の建築家、J=A.M.ラペーニャ&エリアス・トーレスによる設計。もともとは渡り廊下で繋がれた図書館とその別館・・そのふたつの建物の鉄筋コンクリート躯体を残し、鉄骨造で増築付加したという・・ 設計も施工も大変そうな計画。
(上写真) 前面道路、南西側から見る。道路を挟んだ西側には熊本城。

熊本県立美術館分館

形態にしても配置にしても、街並みとは少し距離を取り・・ ポツンと建っている様な感じだが・・歴史ある熊本城の迫力ある美しい石垣を前にしても・・ バロセロナの建築家による現代建築なのに・・ 不思議と馴染んでいる感じ。周辺の日本人の手による建築よりぜんぜん馴染んでる・・ 建築が優れたものであれば、国境も時代も関係なく、呼応できるものなんだなぁという事を改めて思いました。
(上写真) 前面道路、北西側から見る。道路側に大きく張り出した庇部は4階喫茶室

熊本県立美術館分館

主な外装の仕上げは石と銅板・・ともに経年して、風化していく材料を選択する事で、対面する熊本城との建築的関係に配慮をした結果となっている様な気がします。
(上写真左) 外壁は熊本県産の合津石。ちょっとざらっとした感じは砂岩かな

熊本県立美術館分館

内装は徹底してナラ練付板で仕上げられています。改築前の図書館はどこでも見かける様な公民館風の役所建築スタイルだったそうです・・ もともとの姿が想像できないまでに内外共に一新・・ 新築よりもはるかに手が掛かったであろうと思われる・・ 図書館から美術館への見事なリノベーションでした。
(上写真左) 4層吹抜けの巨大な縦空間、エントランスホールを2階より見る
(上写真右) 熊本城を望む大きなパノラマ窓がある4階喫茶室で昼食

「建築探訪 54」-Kumamoto 2

熊本県伝統工芸館
東側の庭から見る

菊竹清訓さん設計の「熊本県伝統工芸館」(1983) を探訪。
1階が工房と販売スペース、2階が展示室・・ 四角い建物の中央あたりに、換気/採光/動線の核として両階をつなぐ吹抜けが設けられた建物。大木もある緑に恵まれた敷地と建物の関係や、2階出窓のヴォリュームが・・goodでした。

熊本県伝統工芸館
(左) 東側の庭より見る
(右) 駐車場よりアプローチとなる南側外観を見る

菊竹さんの解説文によると・・ 「日本の伝統的なカタチにみられる “部分の連続” ・・ 決して全体像が一望できず、見え隠れする部分を通じて全体像が想像として形をあらわす・・ そういったカタチの考えにしたがってまとめた・・」との事。

熊本県伝統工芸館
(左) 外壁は「熊本県立美術館」と同じような「打込みタイル」。耳付きの目地を詰めない「打込みタイル」といえば後期の前川建築の代名詞ですが、どうして菊竹建築に? ・・ 両館共にすぐ近く、つくられた時期も同時期、共に県の建物・・ 何か理由があるのだろうか?
(右) 1階より少し歪んだ形をした吹抜け部を見る
くまモン
駐車場で南側外観を撮影していると、車から降りて来たのは・・ くまモン!!   これから伝統工芸館でイベントがあるそうだ・・

「建築探訪 53」 -Kumamoto

熊本県立美術館

熊本城郭の端に建つ、前川國男の「熊本県立美術館」(1977) を探訪。 (上写真) アプローチ側の南側外観を見る。一目では玄関まで見通せない、視線/動線が突き当たっては折れ曲がりながら・・玄関へと至る前川さんらしい”一筆書き”な構成。高さを押さえた建物がさらに樹々に埋もれ、その存在は全く目立たず・・ 1971年の「埼玉県立博物館」から始まった “後期 前川建築” の到達点・・ 前川建築の完成型ともいえる珠玉の建築・・やっと見に来る事が出来ました!!!

熊本県立美術館
エントランスホールで受付けた後、180度振り返ったロビーの眺め。天井いっぱいまでの縦長窓とワッフルスラブ天井の存在感が効いてます。
( 前川さんはコルビュジェの弟子ですが・・なんとなくルイス・カーン的 ?  )
熊本県立美術館
90度右を向いて、ロビーから続く奥行きのある一室空間を見通す。ロビーの向こうには吹抜ホール、そのさらに奥が喫茶室。(左手に展示室)。細長い平面を強調する様に建物奥まで・・ワッフルスラブ天井と大開口が続いていきます。 床レベルは外部からロビーに至るアプローチを通して、あるいは建物内部の移動においても変化が付けられているのですが・・天井と大開口は常に安定した存在になっています。
熊本県立美術館
1階ロビーよりテラス側を見る。天井いっぱいまで開かれた大きな開口による、内外が一体となった開放的な空間。テラスの向こうには大きな樹々がたくさん植えられた緑豊かな公園が広がっています。南北に細長い平面構成、大きな開口部は東に面しています。訪れたのは午後からだったので、直接光が入ってくる時間帯ではありませんでした。
熊本県立美術館
吹抜ホールを地階より見る。落ち着きのある空間・・ 公園に面した大きな開口が、地階分そのまま更に大きくなっています。大きな開口の上下間のところには、ロビーから喫茶室へと続く渡り廊下があります。上部から吊った軽快な鉄骨造による意匠 ( 竣工時の資料にはなかったので、後の改修 ? )。
熊本県立美術館
(右) 後期の前川建築の代名詞である「打込タイル」。耳付きのタイルになっており(写真で分かるかな?) 、目地は詰めていません・・ タイルを後から貼り付けるのではなく、型枠内側にあらかじめタイルを取付けておいて、コンクリートを流し込む工法・・ より耐久性のある強固な外壁となる、前川さんのお気に入りの手法。

前川國男72歳、熟練の域に達した素晴らしい傑作でした。
こちらは前川國男49歳、”前期 前川建築”の傑作。 こちらは岡山にある前川建築。

「建築探訪 41」-Tokyo/青山

根津美術館

表参道の南端・・ 青山の広い森のような敷地に建つ・・隈研吾さん設計の「根津美術館」(2009) を見に行って来ました。天気はあいにくの小雨。
(上写真) 西-駐車場側より見る。シンプルな切妻屋根だが・・屋根の先端が鉄板製で非常に薄くなっていてシャープなのがさすが・・この屋根先の薄さがこの建築の一番のチャームポイント。

根津美術館
ポーチ部を見る。壁面はリン酸処理の鉄板、軒裏は高圧木毛セメント板、梁は鉄骨露わしと・・工業製品的な素材感を生かした構成がGOOD
根津美術館
40m近くある長い・・露地的なアプローチ部を見る。右側の道路を隠す竹林と丸竹を小間返しで張った壁に挟まれ、2間近くある深い庇下・・包まれる様な軒下空間。この深い庇下空間を可能にしているのは天井面の三角鉄プレートの片持ち梁のおかげ
根津美術館
(左)竹林が植えられた道路側より見る
(右) 1階展示室は庭園に対して大きく開いた開放的な空間。竹練付け板の間に、照明器具や空調設備が仕込まれていて・・キレイな納まりの天井面
根津美術館
(左)南-庭園側より見る。棟/けらば/軒先の役物を一切排したシンプルな瓦葺き屋根 ・・ 大屋根の建築は、やはり軒の低さが美しさのポイントですよね
(右) 美術館と庭園を挟んで建つ、離れのカフェで・・ お茶して帰りました

大原美術館ワークショップ 2011〈終了〉

大原美術館のワークショップが終了。美観地区エリアにある・・・丹下健三の「倉敷市立美術館(旧市役所)」と浦辺鎮太郎の「大原美術館 分館」を案内させて頂きました。 同年代の2人の建築家による、同時代の2つの作品・・・1960年代に建てられた2つの日本近代建築の名作が道路を挟んで対峙しています。 参加して頂いた皆様に、それぞれの建築/建築家の特徴や魅力をうまく伝える事が出来ただろうか。
(上写真) まずは建築家とその作品について簡単に40分ほど説明。
(下写真) それぞれの建物を各40分ほど探訪。

普段は見る事/入る事ができない場所なども見学させて頂き、感謝感謝。
寒い中、2時間のワークッショップ・・・皆様、ありがとうございました。

大原美術館ワークショップ 2011

昨年に引き続き大原美術館のワークショップ講師を務めさせて頂きます。美観地区エリアにある1960年代に建てられた2つの日本近代建築の秀作を案内させて頂きます。
ひとつは倉敷市出身の建築家・浦辺鎮太郎(1909-91)の設計により1961年に建てられた「大原美術館 分館」。もうひとつは日本を代表する建築家・丹下健三(1913-05)の設計により1960年に建てられた「倉敷市美術館」。
見所/魅力が分かりにくい近代建築・・・普段は絵画作品を見るための器として目立つ事の少ない”建築そのもの”・・・にスポットライトを当て、その魅力 についてお話をさせて頂こうと思います。  

詳細は大原美術館のWEBサイトにて。お問い合わせは大原美術館「建物探訪」係まで