「建築探訪 55」-Kumamoto 3

熊本県立美術館分館

「熊本県立美術館 分館」(1992) を探訪。
スペイン人の建築家、J=A.M.ラペーニャ&エリアス・トーレスによる設計。もともとは渡り廊下で繋がれた図書館とその別館・・そのふたつの建物の鉄筋コンクリート躯体を残し、鉄骨造で増築付加したという・・ 設計も施工も大変そうな計画。
(上写真) 前面道路、南西側から見る。道路を挟んだ西側には熊本城。

熊本県立美術館分館

形態にしても配置にしても、街並みとは少し距離を取り・・ ポツンと建っている様な感じだが・・歴史ある熊本城の迫力ある美しい石垣を前にしても・・ バロセロナの建築家による現代建築なのに・・ 不思議と馴染んでいる感じ。周辺の日本人の手による建築よりぜんぜん馴染んでる・・ 建築が優れたものであれば、国境も時代も関係なく、呼応できるものなんだなぁという事を改めて思いました。
(上写真) 前面道路、北西側から見る。道路側に大きく張り出した庇部は4階喫茶室

熊本県立美術館分館

主な外装の仕上げは石と銅板・・ともに経年して、風化していく材料を選択する事で、対面する熊本城との建築的関係に配慮をした結果となっている様な気がします。
(上写真左) 外壁は熊本県産の合津石。ちょっとざらっとした感じは砂岩かな

熊本県立美術館分館

内装は徹底してナラ練付板で仕上げられています。改築前の図書館はどこでも見かける様な公民館風の役所建築スタイルだったそうです・・ もともとの姿が想像できないまでに内外共に一新・・ 新築よりもはるかに手が掛かったであろうと思われる・・ 図書館から美術館への見事なリノベーションでした。
(上写真左) 4層吹抜けの巨大な縦空間、エントランスホールを2階より見る
(上写真右) 熊本城を望む大きなパノラマ窓がある4階喫茶室で昼食

「建築探訪 49」-Ehime/松山

松山ITMビル

伊東豊雄さんが設計された「松山ITMビル」(1993)を探訪・・松山市内の住居地域に建つ専用オフィスビル。
(上写真)3層の吹抜けがあるロビーを見る。北西を向く乳白フィルムを貼ったガラス面は、隣接する建物の存在感と午後から差し込む強い光を効果的に和らげています。抽象的で浮遊感に満たされた空間感や、内外装のシルバーメタリックでインダストリアルな素材感などは・・ 90年代の伊東さんらしい建築。

松山ITMビル
(左) 北西側のエントランスホール外観を見る。右手隣家が非常に近い
(右) 南西側の隣地駐車場から見る。敷地なりの3層カーテンウォール

この頃の自身の作品集に寄せた伊東さんの文章では・・新しい情報テクノロジーや移動システムなどが横暴に拡大し、支配しつつある東京のような都市空間の惨状について・・「・・ノスタルジーに耽るよりも、今日の都市空間に潜む新たな魅力を探る事の方がはるかに意味がある・・ ” マイクロ・エレクトロニック・エイジのイメージ ” をビジュアライズする作業・・エレクトロニックな流れの空間に、エレクトロニックな渦・・かつてのゲニウス・ロキに代わる “情報の場” を巻き起こす試み・・」  伊東豊雄 

「建築探訪 41」-Tokyo/青山

根津美術館

表参道の南端・・ 青山の広い森のような敷地に建つ・・隈研吾さん設計の「根津美術館」(2009) を見に行って来ました。天気はあいにくの小雨。
(上写真) 西-駐車場側より見る。シンプルな切妻屋根だが・・屋根の先端が鉄板製で非常に薄くなっていてシャープなのがさすが・・この屋根先の薄さがこの建築の一番のチャームポイント。

根津美術館
ポーチ部を見る。壁面はリン酸処理の鉄板、軒裏は高圧木毛セメント板、梁は鉄骨露わしと・・工業製品的な素材感を生かした構成がGOOD
根津美術館
40m近くある長い・・露地的なアプローチ部を見る。右側の道路を隠す竹林と丸竹を小間返しで張った壁に挟まれ、2間近くある深い庇下・・包まれる様な軒下空間。この深い庇下空間を可能にしているのは天井面の三角鉄プレートの片持ち梁のおかげ
根津美術館
(左)竹林が植えられた道路側より見る
(右) 1階展示室は庭園に対して大きく開いた開放的な空間。竹練付け板の間に、照明器具や空調設備が仕込まれていて・・キレイな納まりの天井面
根津美術館
(左)南-庭園側より見る。棟/けらば/軒先の役物を一切排したシンプルな瓦葺き屋根 ・・ 大屋根の建築は、やはり軒の低さが美しさのポイントですよね
(右) 美術館と庭園を挟んで建つ、離れのカフェで・・ お茶して帰りました

「建物探訪 39」 -Hiroshima/三原

三原市芸術文化センター

「三原市芸術文化センター」(’07)  設計:槇文彦(1928-)
(上写真)東側芝生広場より見る。押し潰した半球型のホール屋根が特徴的な外観、鏡餅みたいです。建物中央部に1200席の多目的ホール、その背後にフライタワー、芝生広場に面したガラスBOX部がホワイエ、左側2層BOX部が事務室/楽屋/練習室等・・外観とプランが合致した明解な構成。

三原市芸術文化センター
(左) ホワイエの中庭を見る。ホワイエには大きな中庭が設けられています。左上部にはホール屋根が見えます
(右)中庭よりホワイエ、その向こうには芝生広場が見る

外部と連続したとても開放的な構成は、このホワイエがコンサート等が催されている意外の時にも、色々な市民活動に利用される場所として考えられているからだと思います。この日は平日で何の催しもない時でしたが、ホワイエは開放されていて出入りは自由、とても暑い日でしたが・・空調も効いていたのでひと休憩。

三原市芸術文化センター
芝生広場と連続した開放的なホワイエ

「独りのためのパブリックスペース」とはこの建物を設計した時の槇さんの論文題・・ 美術館で誰にも邪魔されず好きな作品と静かに対面できるように・・都市で独り佇む事ができる余裕と優しさのあるパブリックスペースが、日本の都市には少ないと嘆かれる槇さん・・訪れたこの日、広いホワイエでは男性が独りで本をずっと読んでいました。

「建築探訪 38」 -Osaka/梅田再開発 2

富国生命ビル

先日はいろいろと用事で大阪へ・・(上写真は)オープンしたばかりの建替えられた「富国生命ビル」。設計/施工は清水建設・・デザインアーキテクトには「フランス国立図書館」の設計で有名なフランス人建築家ドミニク・ペロー・・・力強く根を張った樹木の姿から着想、建物壁面は周囲を映す鏡面の「樹皮」・・・だそうだ。デザインアーキテクトという立場では、実際どれくらい細かく設計に関わっているかは計り知れませんが・・ 「ブリーゼタワー」に引き続き梅田に外国人建築家による”おしゃれな”高層ビルが完成しました。

富国生命ビル
ランダムにデザインされた凹凸のあるガラス面・・下の方は大きく上にいくほど小さくなっている・・正面には色のついたガラス、小口には鏡と、面により使い分ける事で複雑に周囲の建物がガラス面に映り込んでいる・・・そんな姿がペロー氏の言う “樹木”のイメージなんでしょうか・・・完成度は精緻とまでは行きませんが・・・こういうランダムなリズムのデザイン・・嫌いではないです・・

用事の1つ・・知人の方がモデルコンテストにてグランプリを受賞 !! 
大阪城で催された展示会場に見に行って来ました。この模型が凄い・・細部までの執念的な作り込み&美しさに感動しました。

どこから凝視しても手抜きのない精緻さ・・素晴らしい。建築もこうでなければ・・・「細部に神がやどる」とは近代建築の巨匠ミース・ファン・デル・ローエの言葉。

「建築探訪 37」-Osaka/梅田再開発

JR大阪駅

先週は大阪に帰省&お墓参りへ行っておりました。
(上写真) 宿泊した駅前のホテルからJR大阪駅を見下ろす。
再開発がどんどん進み、何もなかった駅上に大きな屋根と高層ビルが・・・
左下に見える関西名モダニズム建築のひとつ吉田鉄郎設計による「大阪中央郵便局(1939)」も駅前再開発の影響で周囲を工事塀で囲われ、取壊して高層ビルに建て替える準備でしょうか・・・フェスティバルホールの入っていた中之島の「新朝日ビル」もすでに取り壊され、高層ビルへの建て替え工事が始まっていました・・

梅田

(左写真) 阪急百貨店も高層ビルに変わってしまい・・梅田の顔である阪急のビルが・・このデザインでどうなんだろうか ???
ここ数年で大阪の顔である中之島や梅田の様子が大きく変わり・・だんだんと見慣れない姿に変わっていくのはやはり少し寂しい感じ・・

(右写真) 大阪で勤めていた時には、いつもこのビルの足下を自転車で通っていた「富国生命ビル」も建替え・・・基本デザインは「フランス国立図書館」の設計で有名なフランス人建築家ドミニク・ペロー・・・さすがに一味は違うが、やはり本国で設計する建物のようなレベルにまでは遠く及ばないのは仕方ないか・・・力強く根を張った樹木の姿から着想、建物壁面は周囲を映す鏡面の「樹皮」・・・だそうだ。
2008年に竣工した・・やはり有名外国人建築家を基本デザイナーに採用した梅田の「ブリーゼタワー」も同様ですが・・・様々な物事がグローバル化している時代においても、建築の出来映えという点では・・やはりヨーロッパの建築家にとって・・・日本は遠すぎるのではないでしょうか。

大阪の皆様、いろいろと有難うございました。

「建物探訪 31」 -Tokyo/丸の内

新丸の内ビルディング

「新丸の内ビルディング(’07)」 
設計:三菱地所 + Design Architect/マイケル・ホプキンス(英)
(上写真)北側の通りから見る。東京駅の向こうに「グラントウキョウノースタワー(’08)」。

明治より始まる丸の内オフィス街の景観はロンドン風/赤煉瓦オフィスビル街から始まり、アメリカ風/大型オフィスビル街へと変わり。そしてここ数年はガラス張りの現代的な新しい高層ビルに次々へと建て替えられ・・東京駅越しの八重洲口側/ヘルムート・ヤーン(米)がデザインアーキテクトを務める「グラントウキョウ」も含め、景観は大きく変貌しています・・・

東京駅から見ると、正面の皇居を結ぶ軸線(行幸通り)を挟んで建つツインタワービルの右側のビルです。デザインの大きな特徴の1つは、建物全体を高層部と低層部に分けている事・・低層部はかつての丸の内の景観を形成していた”31mの軒高さ”に合わせている・・それにより大きな建物と人(街路)の関係が失われる事がない様・・かつての31mという高さのままの基壇(低層部)が人(街路)と連続的な関係を築くようにとのピロティ等も設けて配慮している。もう1つは建物全体も”分節”に注意している事・・都市部で近頃たくさん出来る高層建物のデザインは細やかさのない大味な”箱のまま”が多いのですが・・大きい建物だからこそ細やかな部分・・部材と部材を繋ぐ細かな溝/縦フィン/水平ルーバー/低層部のフレーミングデザイン等・・細やかに分節したヒューマンスケールを見失わないデザインand 陰影のあるデザインが配慮されています。期待せずに見に行きましたが、鉄とガラスを多用した”レトロモダニズムな感じ”は悪くないと思います・・

新丸の内ビルディング
(左)東京駅から見る。その後ろには「東京海上ビル(’74)」by前川國男
(右)行幸通り、皇居側から東京駅を見る。左に「新丸の内ビルディング」 右に「丸の内ビルディング(’02)」

「建築探訪 30」 -Tokyo/表参道

ディオール表参道

「ディオール表参道(2004)」、設計はいまや日本を代表し、海外での活躍もめざましい・・「金沢21世紀美術館」の設計などで知られる SANAA/妹島和世+西沢立衛

四角/ガラス張り/ミニマリズム/レスイズム・・・いわゆるガラスBOX建築・・近代建築の巨匠ミース・ファン・デル・ローエ(1886-1969)の系譜・・今もスタイリッシュな作風の多くの建築家が憧れる・・・ミースの 「完全なガラスの箱のような、なにもない建築をつくりたい」 という夢は・・
「フリードリッヒ街のオフィスビル」というこの1919年に描かれたドローイング(下写真)から始まっています・・90年近く前にミースが描いた夢に今なお多くの建築家が魅了されているのです・・魅了されているというよりも”呪縛”だね

「建築探訪 29」 -Kagawa 4

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館

「丸亀市猪熊弦一郎現代美術館 (’91)」(設計:谷口吉生) はとても素晴らしい美術館・・ 個人的にはかなりお気に入りの建築。
(上写真)ファサードを見る。黄色い彫刻は「星座」 右のは「シェルの歌」
普通ならばホテルやデパートが建つ駅前というロケーションや街に対して・・駅前から美術館まで一体がひと続きとなったデザインとした事、屋外彫刻を配したこのガランとしたスペースを設けた事、子供の落書きの様に自由なインパクトのある大壁画を設けた事、このファサードの大きな構え方・・・・ どこにでもある様な均質化した駅前とは違った “美術館がある駅前” という新しい場所性/風景を生み出す事に・・成功しているように思えます。

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
入口部分を見る。大きなファサードとは一転して、入口はとても小さい・・花崗岩の床、コンクリート打放しの壁、大理石の壁画壁、アルミパネルの庇。左側の階段は、建物の長手を貫き、3階の最奥にある屋上広場までつながっている “大階段”。
丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
小さな入口を抜け、エントランスホールに入る・・ここも高さを抑えた空間。その先への広がりを予感させる、3段だけ上がったスペースへと自然と引き寄せられる。床/巾木はライムストーン、壁/天井は塗装仕上げ
丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
上階の展示室へと繋がる階段と吹抜け。
幾何学的な理性が支配する、抽象的で洗練されたデザインスタイルは、”ザ・モダン” と言ってもいいと思うのだが・・ 次なる空間へのつながりが常に期待させられる様な空間構成を、建物にてリアルに感じていると・・ そのデザイン思想の根幹には “日本的感性” が強く浸透しているように思えま
丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
9m以上はある、天井が高い2階展示室を見る

「この美術館の設計は時間がなくて完全に煮詰まっていない所が多いのだが、それがかえって建築を大らかな感じにしていて、そこが良かったのだ」と谷口吉生さんは仰っているのだが・・ どこがどこがという感じ・・細かな所まで完璧主義が貫かれた、あいかわらずの精緻極まりない谷口建築の見事さ・・ 

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
2階展示室の全体を見渡す

設計者である谷口吉生は猪熊弦一郎から「日本の建築はこまごまとして、スケールが小さい・・スケール感だけは大きくして欲しい。大きなスケール感がある建築で、光がよければ、あとは一切任せる」と言われ・・ “大きなスケール感”を出す為の、「プロポーションの決定」や「素材の使い方」に設計の多くの時間をかけたそうだ。

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
 “大階段” の2階部分を見る。置いてある彫刻は「草」

「建築にはいろいろな様式・・賑わしては消える流行の様式・・しかし最終的に建築の良し悪しを決めるのは、やはりプローポションと光と素材、あるいはスケールとテクスチャーなど基本的なこと・・ 」 by 谷口吉生

猪熊弦一郎美術館では「子供から入場料を取ってはいけない。少しでも取ってしまえば、よほどでないと来られなくなる。タダなら学校の帰りだろうと何だろうと、いつも寄ることが出来る。そういう風に見て貰わなくちゃいけない・・」との猪熊弦一郎さんの意見から、高校生以下は入場無料となっています。こんなに素敵な美術館に、倉敷からは1時間くらいで行けるので・・ LUCKYです。

「建築探訪 28」 -Ehime 3

坂の上の雲ミュージアムと菅井内科

愛媛建築探訪のメインであった・・安藤忠雄さんが設計され、昨年OPENしたばかりの 「坂の上の雲ミュージアム」 (上写真左)
5度傾斜したカーテンウォールの外壁に覆われた三角形平面の建築・・大きな池のあるピロティを眺めながら長いスロープを上がって 2階エントランスにいたります・・・エントランスの踊り場から建物裏を覗くと見えたのが・・ (上写真右)うねるカラフルなバルコニー腰壁が積層したただならぬ外観の建物・・・
(大御所”ANDO”先生のミュージアムはさすがにキチッと出来てました・・)

菅井内科

(上写真左)店舗が並ぶ通りからは、階段でかなり上がるかたちになるがこちらがメインアプローチのようだ・・「菅井内科」は長谷川逸子さんが1980年に設計された建築・・うねる壁面、軽く舞うパンチングメタル、華やかな色彩・・・過剰な装飾をまとい、押しが強く、理由もなく明るい・・ポストモダン建築時代の到来を予感させる・・
1986年「東京都庁舎」コンペで丹下健三が1等を勝ち取った年、もうひとつの話題コンペであった「湘南台文化センター」を”第二の自然”というコンセプトで見事に勝ち取った女性建築家(日本では女性建築家が大きな公共建築を手掛けるのはこれが初? だと思います)・・・長谷川逸子の80年代初期の作品・・