「建築探訪 145」-Okayama 5

Junko Fukutake Terrace

大きなイチョウ並木に沿う様に、街にそっと置かれた建物の配置と・・周辺に対してシームレスに繋がっていく開放的な佇まいが・・印象的な「Junko Fukutake Terrace」。岡山大学キャンパス内に建てられたカフェ・・”地域に開かれた施設”の姿は、建物の寄贈者であり、残念ながら今年の2月に亡くなられた、故福武純子さんの思いから

Junko Fukutake Terrace

長手の立面を見る。断面的な「屋根のうねり」が、この建築のチャームポイント。水面の揺らぎの様に・・流れる屋根のラインが、とても素敵な建築。小さな建築ですが・・よくよく見ると、さすがのプリツカー賞建築家による建築・・という感じで凄いです。

Junko Fukutake Terrace
林立する細い柱」も、この建築のチャームポイント
Junko Fukutake Terrace
大きな樹木を避けながら”うねった屋根”は、平面的にもアメーバーのような不定形・・建物の構成としてはシンプルだが、工事は難しそうだ
Junko Fukutake Terrace
外部の屋根は「12mmの鉄板にフッ素樹脂塗装」のみ。1/50の断面図で作図をしたら、屋根の厚みの作図部分は「0.24mmの線が1本」だけという・・嘘のような断面図になってしまいます
Junko Fukutake Terrace
カフェ客席より、厨房やトイレなどが入ったコア部を見る。内部天井の仕上げはプラスターボード張り。床の仕上げはコンクリートに撥水剤のみ
Junko Fukutake Terrace

自然に人が入ってこられる、地域の一部となった、まちなかの公園のような大学のカフェ・・日本を代表する建築家ユニットSANNAの設計により、2014年に完成した現代建築の秀作。

「建築探訪 144」- Gifu

みんなの森ぎふメディアコスモス

伊東豊雄さん設計の「みんなの森 ぎふメディアコスモス」を探訪。市役所、市民会館、裁判所、税務署、警察署などが集まる岐阜市の中心市街地に建つ、2015年7月にOPENした・・2階全フロアを占める図書館を核に、1階には市民のためのギャラリーやホール、スタジオや交流センター、コンビニやスタバなどなども入った・・とても大きな複合施設。80m×90mという方形を2層重ねた、シンプルな構成の建物。

みんなの森ぎふメディアコスモス
建物の周囲には・・並木道、せせらぎ、デッキテラス、広場なども設けられていて・・とてもいい感じ
みんなの森ぎふメディアコスモス
1階エントランスホールを見る。床面に描かれた、各スペースへの方向を示す「丸サイン」が、視認性が高い&分かり易く・・goodです
みんなの森ぎふメディアコスモス
建物の中核である、図書館スペースのある2階へ・・大きな傘が!!!
みんなの森ぎふメディアコスモス

全く壁のない、80×90mのワンルームの開架エリアに・・いくつもの「”グローブ”と呼ばれる巨大な傘」が、天井から吊られている、2階の眺めが圧巻です。そしてこの「うねっている木製天井」・・厚さ2cmの板で組み上げた「三角格子」を積層させたという天井!!!!! 凄いです!!!!!

みんなの森ぎふメディアコスモス
“傘”はポリエステル製の布で出来ていて直径は8~14m
みんなの森ぎふメディアコスモス
机中心のコーナー、ベンチ中心のコーナー・・性格やしつらえの異なる、それぞれのコーナーを覆う・・デザインの異なる”傘”が11個!!!
みんなの森ぎふメディアコスモス
起伏のある床がオモシロイ・・小さな子供のいる親子中心のコーナー
みんなの森ぎふメディアコスモス
こんなに大きな傘ですが・・柱など下部からの支えはなし。本当に、上から吊っているだけ
みんなの森ぎふメディアコスモス
籐で編まれたgoodな椅子が並んだ・・視聴覚コーナー
みんなの森ぎふメディアコスモス
2階カウンターのコーナー。外周に面した席も、たくさん用意されています。(下)1階、円形テラスに面したコーナーには、畳床もあり
みんなの森ぎふメディアコスモス

とにかく、広い建物の内外あちらこちら・・変化のある様々な居場所に、たくさんの席と活動の場を、用意されていたのが・・印象的でした・・閉館時間も21時(閉館日は月1回)という、市民利用(岐阜市民は40万程で倉敷市と同規模・・)を優先した開館。”みんなの森”というだけは、ありました。

出雲の原さん

出雲で活躍されている原浩二建築設計事務所さんの設計された「灰色の家Ⅱ」を訪れる。とてもgoodな外観を簡潔に表現すると、”焼杉板で覆われた大屋根” の建築。(写真が上手でなくてスイマセン・・原さん)
全く個人的な根拠のない思いつきなんですが、焼杉板のテクスチャや色味というのは・・曇り空の方が似合うんだろうか・・(ふつう建築外観は快晴の方が絶対的に冴えるものだが) 曇り空な山陰の天候の下でも冴える建物外観・・山陰の天候まで意識して素材を選択されている原さんの力量なんだろうか !!!??
(上写真)前面道路より見る・・開口の向こうには深い軒に覆われた半外空間の中庭的アプローチ空間。

半外空間の中庭的アプローチ空間と・・ひと繋がりとなった内部土間スペースからダイニングキッチンを見る。土間スペースに架かるスチール製階段を上がった2階は個室階。半屋外中庭~土間~1階~2階と全てがひと繋がりとなった空間構成が気持ち良く・・ディテールや素材選択などの細かな所までなるほどという工夫の効いた・・とても居心地の良い、落ち着ける住宅でした。
ペンダント灯のもとで談笑されているのが原浩二さん(左側は倉敷の建築仲間である平野建築設計室の平野毅さん)・・色々とお話出来て楽しかったです。

予定にはなかったのですが、原さんが突如、別の建物も案内してくださるとの事で・・「段々畑の家」を訪れる。こちらは新建築住宅特集(2014年10月号)にも掲載されていた住宅。タイトル通りに “段々畑” が・・外部と内部の関係を調整する重要な役割を担っており、それが建築そのものの重要な個性としてアイコン化しています。40cmごとの段々が5段、2mほどの高さとなった「段々畑」は大屋根と一体になりながら、周辺との関係性を遮りながらも繋いでいるのが・・この建築の大きなポイント。

簡単に言ってしまえば、中庭型の住宅なんだけど・・その中庭の設え方が普通とは全然違っているところに、原さんの心意気、この建築への想いが・・たくさん詰まっているなぁと感じました。
突如の訪問だったので・・「段々畑の家」のおうちの方は不在で、外部からの探訪だけとなりましたが・・とても素敵な住宅でした。敷地前の幹線道路から見える、とてもチャーミングでアイコニックな “段々畑と大屋根が一体となった外観” はもちろん素敵でしたが・・それよりも何よりも(灰色の家Ⅱも同様に)「内外共に個性のある建物を楽しんで・・暮らされているんだろうなぁ」というのが・・原さん設計の建物を訪れての感想でした。
個人的には、原さんの作品の中でも”大屋根+焼杉”のシリーズが・・特に好き!!

「建築探訪 130」-Osaka/茨木

光の教会

安藤忠雄さん設計の「光の教会」(1989)・・竣工からもう四半世紀!!!  学生の頃、大阪在住だったからなのか・・建築専門のメディアだけでなく一般向けの雑誌TVでも・・度々眼にする事が多かったANDOさん・・「建築家といえば=安藤忠雄」。関西ローカルの放送だったのか?・・この教会の建築工事に追ったTV番組もありましたよね。

(下写真)18×6×8mの箱に、壁1枚だけ挿入という・・シンプルな構成

90年代に入ると公共建築などの大規模な作品にANDO建築はシフトしていくが・・建築史上、不朽の名建築と言っても過言ではない東邸(’76)同様・・とても小さく/とても質素だけれども・・厳選/熟考/純化された・・素材、ディテール、空間構成、光、記憶・・見えないものをカタチへと変える、建築家/安藤忠雄の力が遺憾なく発揮されたであろう・・珠玉の小建築。  
(上写真 左上) 開口部そのものが十字架という・・アイデアがこの建築の要。

(下写真)十字架の開口部詳細。もちろんガラスが嵌まっていますが・・ANDOさん的には、ガラスは入れたくなかったそうです・・

光の教会

「あそこガラス入れたら、なんか・・ん~難しいな。ないほうがええな」
「別になくってもええの違うかなぁ。ちょっと寒いだけやろ。」
「そらちょっと寒いわなぁ。だけどきれいや、なんか」
「ガラスないほうが。パーっとするで」

上記の言葉は、平松剛著「光の教会-安藤忠雄の現場」より・・さすがに「世界のANDO」な発言!! 大胆な提案!!・・光の教会(’89)、こどもの館(’89)、ライカ(’89)、タイムズ(’91)、水御堂(’91)、姫路文学館(’91)、大手前(’92)、六甲2(’93)・・80年代後半~90年代前半、竣工したばかりの(力作揃いの)ANDO作品を数々探訪していた学生時代が・・懐かしい限りです。

「建築探訪 98」-Tokyo/蒲田

森山邸

SANAAの西沢立衛さんの設計による「森山邸」(2006) 。1~5坪程度の小さな白い箱が10個・・ 敷地内に散りばめられた様な不思議な・・それまでになかった斬新なプランの集合住宅です。(上写真) 北側道路から見たところ・・箱と箱の間は土のままで庭のような、路地のような・・

森山邸
10個の独立した箱で・・3軒が住まうかたちの集合住宅なので、複数の独立した箱とその箱間の屋外スペースが自分の住居エリアとなる・・個性的な住まい方。(上写真) 東側道路から見たところ・・
森山邸
北側道路から見たところ・・

敷地を囲う北側道路と東側道路は3~4m程度の狭い道路。その道路に2階建ての住宅が、門扉塀もなく境界いっぱいまで・・向かいあって建つ形の住宅街の中・・ 建物ヴォリュームに対して比率の大きい開口。大開口の上、更にカーテンブラインド等もないので、生活空間が道路側に向かって・・まるでショーウインドウの様にOPENな状態。住まう方にそれなりの覚悟が必要な住まい。

森山邸
北東側から外観を見る。 確かに、これまでのコミュニティや風景とは全く違う形式が・・いたって普通のどちらかと言えば懐かしい様な下町的な感じの住宅街の中に・・ 提示されていました。関係性や多様性というキーワードは建築に限らず・・どんなジャンルでも、今やコンテンポラリーなテーマとして重要な視点なんでしょうね・・

「・・窓を大きくすると、周りが見え始め、動的関係が生まれる・・閉鎖的で一様な世界から、いろいろな生物が関係し合う、より多様な生物世界となっていく・・明るく開放的で透明であることが僕には必要であった・・今までのコミュニティがつくり出してきた風景とは形式的に違う、これからの風景に繋がっていく・・」  by西沢立衛

「建築探訪 97」-Tokyo/芝浦

SHIBAURA HOUSE

2010年には建築界のノーベル賞・・とも言われるプリツカー賞も受賞され、金沢にある21世紀美術館の設計でもよく知られた・・SANAAの妹島和世さんが設計された「SHIBAURA HOUSE」(2011) を訪ねる。残念ながらこの日は雨で・・写真がイマイチですが・・(上写真) 東南側から道路越しに外観を見る。5階建てのオフィスビルなのですが、隣の10階建てマンションと高さが同じです(1層あたりの階高が平均6mと普通よりかなり高いと言う事) 。

SHIBAURA HOUSE
リビングと呼ばれる1階のスペース・・5m以上あるガラス張りの広い空間が、通りと繋がる様に開かれていました。この日は多摩美大による企画展の展示が行われていました
SHIBAURA HOUSE
ラウンジと呼ばれる2階のスペース。右手の吹抜けは1階から階段を介して2階と繋がり、左手の屋外テラス吹抜けも階段を介して3階へと繋がっていく・・ 
SHIBAURA HOUSE
同じくラウンジと呼ばれる3階のスペース。右手の屋外テラス吹抜けは・・2階から階段を介して3階と繋がり、左手の屋外テラス吹抜けも階段を介して4階へと繋がっていく・・ 充分な天井高さがある各階が、さらに充分な高さのある吹抜けを介して、他階と繋がっていく構成の連続は・・ 建物内における伸びやかな空間の上下関係をつくり出していました
SHIBAURA HOUSE

建物全体が全てガラス張りなので・・建物内における伸びやかな関係は、更に外部に対してもドンドン開かれて行く訳で・・ 部屋と部屋、建物と外部・・という空間を隔てる物が全て取り払われてガンガンに開かれていく・・ SANAAらしい空間。(上写真) 10mほどの高さがある・・3階の屋外テラス。上部4階の傘が見えるフロアが・・この建物を運営されているオーナーのオフイスとなっています。(室内だけど日差しがキツイので日除けの傘・・寛容なオーナーに拍手)

「建築探訪 92」-Kagoshima

岩崎美術館工芸館

九州のほぼ最南・・鹿児島県指宿市の海から程近い、緑豊かな広い敷地内にある・・槇文彦さん設計の「岩崎美術館」(1978) 。手前は同設計者による「岩崎美術館 工芸館」(1987)。

岩崎美術館
(左) マッシヴで、”凸凹”した感じの東側外観・・ 鉄骨の”➕”で囲まれたBOX部分がエントランス・・エントランスから真っ直ぐに続く・・建物の一番高い部分はメイン階段の採光用・・建物はスキップフロアになっていますが・・基本的に地上1階。建物のイメージは地中海を見下ろすヴィッラ・・
(右) 南側外観を見る。コンクリートBOXの上に載っている両側のガラスBOXは大展示室の採光用トップライト。南側外観には建物を小さく見せている・・ある工夫が施されています・・ 

 “凸凹”と”➕”が、この建築のモチーフ。

岩崎美術館
北側外観を見る

小展示室のコンクリートBOXの上にも採光用の”凸”が載っています・・窓は南を向いているので、こちらからは見えません。杉板型枠によるコンクリート打ち放し・・目地の取り方も細かくデザインされています。マッスなヴォリュームの大胆さに対して、杉板型枠のテクスチャーや目地割りは非常に繊細・・対比的な感じがgoodです。

岩崎美術館
(左) 玄関から入ってすぐのメイン階段を見る。左手に大展示室、奥に小展示室。高さのある吹抜け上部から光が差し込んでいます
(右) 大展示室からメイン階段を見る。左手に小展示室、右手に玄関
岩崎美術館
奥の小展示室へと階段を上がって行く途中の・・コルビュジェの「LC1」が4脚置かれている、中庭に面した休憩コーナー。窓のブラインドと床の敷物は必要なのか・・ない方が建築の構成の素敵な所がより際立つのでは・・
岩崎美術館工芸館
(左) 本館と工芸館を繋ぐ、水面に面した渡り廊下部を見る
(右) 屋根の板金納まり・・タテハゼ先端納まりが鋭い!!
岩崎美術館工芸館
(左) 本館から工芸館へ向かう・・ 杉板型枠コンクリート打放し壁に凹みをつくって・・照明。階段を上がると、水面に面した渡り廊下部です
(右) 壁から持ち出したスチールフラットバーと、細かな面取りを施した木の組合せによる手摺り・・人の手が直接触れる部分のテクスチャーは大事ですよね

「建築探訪 91」- Oita

風の丘葬斎場

大分県中津市郊外の丘陵地・・槇文彦さん設計の「風の丘葬斎場」(1997) 。槇さん設計の葬斎場なので、デザインがgoodで上品なのは当然な事として・・・とても市営の施設とは思えない、コストも空間もハイレベルな建物。敷地も公園のような感じで・・古墳群を含んだ広場もあり、とても広々としています。大きな構成としては・・形も機能も仕上も異なる独立した3棟(斎場棟、待合棟、火葬棟) と エントランス・・4つの要素を・・中庭や回廊を介しながら、通夜-葬儀-火葬-見送などのそれぞれの儀式性の高いシーンに適する様に・・うまく繋ぎ合わせて構成。

(上写真左) 間口が広いエントランス車寄を見る
(上写真右) 格子奥の告別室へとつながるトップライトと柱の存在感が印象的なポーチを見る

風の丘葬斎場
庭園に面した大きな開口がある待合ロビーを見る。家具もポール・ケアホルムのPKシリーズ・・グレードが高いです
風の丘葬斎場
待合ロビーの中心にある、存在感のある階段・・床から浮いた様に見える、重量感のあるコンクリート打放しの腰壁・・スチール製段板はコンクリート腰壁からのキャンチレバー。大きな円弧を描く吹抜け・・トップライトから光が静かに差し込んでいました

葬斎場という建物の性格からなのか・・ 「風の丘」は、他の槇作品では見る事があまりないくらいに・・素材の物質性が非常に強く表現されている作品。荒々しい目地仕上げのレンガ壁、表面に錆をまとったコールテン鋼、杉板型枠によるコンクリート打放しといった存在感の強いマテリアル・・ そしてその物質感を生かす、注意深いディティール・・・素材の物質性に意識を高めていく事で、シンプルで無機質なモダニズム建築でも、複雑性と多重性を潜ませた存在感を獲得しうるという事は・・ミースやアアルトも明らかにしてくれている訳だとは思いますが・・

「建築探訪 89」Tokyo/本郷2

東京大学法学系教育棟

槇文彦さん設計の「東京大学 法学系教育棟」(2004)。正門から入ったすぐ右手、キャンパス内通りと本郷通りに挟まれた・・ 通りと平行に建つ、南北に細長い建物。鉄骨造4階建、外装はすべてガラスのカーテンウォール。天井高さ3.0mの室内と、0.8mの天井裏(床下) の繰り返しがよく分かる・・透明ガラスとブラストガラスを使い分けた・・東側外観をキャンパス内通りより見る。

東京大学法学系教育棟

キャンパス内通りより外観を見る。藤棚を挟んで、手前には安藤忠雄さん設計の「東京大学 福武ホール」(2008) 。大きな樹に囲まれたガラスBOX・・ ヴォボリュームを抑えた、控えめな存在。重厚な建物が多いキャンパス内にあってはやや異質な存在感。

東京大学法学系教育棟
建物内の廊下は細長い建物全体を貫いています・・キャンパス内通りと平行に約65m。床は御影石張り。壁天井はPB t=9.5+12.5 EP仕上げ。サッシ方立ての間隔は0.8m。
東京大学法学系教育棟
1階エントランスと階段を見る。階段の向こうには藤棚が見えます。エントランスと階段は細長い建物の両端に左右対称で配置。